研究課題/領域番号 |
21K06198
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲葉 真史 京都大学, 理学研究科, 助教 (60893360)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | パターン形成 / 膜電位 / トリ胚 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
これまでに、色素細胞の膜電位変化がトリ胚色素パターン形成の長距離シグナルとして働くことを実証するため、カリウムチャネル(Kir2.1)の強制発現実験を行った。Kir2.1の強制発現は一般的に膜電位を過分極させる。実験の結果、「Kir2.1を発現する色素細胞」および、それらから遠く離れた「発現させていない細胞」の両方で色素分化スイッチを確認しており、これは膜電位変化(過分極)が長距離シグナルとして働くことを示唆している。 今回、膜電位を脱分極の方向へ変化させるために、ナトリウムチャネル(NaChBac)とチャネルロドプシンの導入を試みた。現在のところ、NaChBac強制発現では個体の死亡率が高く効果を検証できていない。一方、チャネルロドプシンの発現と青色光の照射によって起こる脱分極によって、Kir2.1強制発現の場合と同等の色素分化スイッチが観察された。また、光照射タイミングを変えて実験を行い、色素分化スイッチの誘発はパターン形成の開始時期での光照射で十分であることが分った。さらに、チャネルロドプシン活性化による色素分化スイッチをMelEM抗体を使って可視化した。MelEMは皮膚の変形が大きくなる以前より黒色素細胞を特異的に認識できるため、本来の歪みのない色素パターンを可視化することができる。結果、チャネルロドプシン活性化によるMelEM陽性細胞の分布の変化および色素パターンの境界面の変化が確認できた。これにより、膜電位変化による長距離の影響範囲をより明確に解析できるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カリウムチャネル発現による過分極シグナルだけでなく、チャネルロドプシンによる脱分極シグナルも色素パターン形成において長距離に作用することが確認できた。また脱分極の光制御から、膜電位変化による色素パターン形成の時期特異性が明らかとなった。さらにマーカー分子(MelEM)の利用によって、より詳細に膜電位変化シグナルの効果範囲を解析できるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、色素細胞のランダムな集団に対しての膜電位操作しかできておらず、膜電位変化シグナルの到達距離や強度などを解析することは困難であった。そこで今後は、チャネルロドプシンの実験系を基盤として、レーザーによる局所的な光照射を使って、特定かつ少数の細胞集団を脱分極させ、その効果範囲をマーカー分子(MelEM)を指標に解析を行う。 膜電位変化が長距離に作用していることから、膜電位変化が細胞間を伝播することが期待される。その様子を捉えるために膜電位センサーのArclightを使用する。赤色応答性のチャネルロドプシンChrimsonRと組み合わせることで、膜電位の操作と可視化を試みる。Arclightの蛍光変化が微弱な場合もありうるので、膜電位変化と付随することの多いカルシウム変化を検出することも視野に入れる。すでに、カルシウムセンサーのGCAMP6によって色素細胞において特徴的なパルスが検出されているので、この現象と膜電位変化および色素分化スイッチとの対応を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたアメリカ発生生物学会や国内学会がオンライン開催となったこと、また遺伝子発現実験の結果、イオンチャネルの強制発現で効果が強く確認されたため、RNA seq.による網羅的解析の計画を変更して、イオンチャネルの解析を集中して行うこととしたため、未使用額が生じた。 このため、海外学会発表およびイオンチャネル解析に必要な物品の購入は次年度とし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
|