研究課題/領域番号 |
21K06204
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研究機関 | 株式会社生命誌研究館 |
研究代表者 |
近藤 寿人 株式会社生命誌研究館, その他部局等, 顧問 (70127083)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | OTX2 / Wntシグナル / 神経系原基 / N2エンハンサー / 脳 / 脊髄 / 単一細胞トランスクリプトーム / 神経系ー中胚葉共通前駆体 |
研究実績の概要 |
(1)胚のエピブラスト細胞が移動しながら神経系原基を作る過程への、転写因子OTX2の制御機能の関与、(2)OTX2が制御する下流遺伝子の解析、(3)OTX2と、発現・機能の両面で逆走間が予測されるWntシグナルとの関わりの解析、これらが本研究の柱になっている。 令和5年度(2023年度)の研究では、令和4年度における(3)の研究実績をもとにして、(1)の研究を進展させた。その結果、以下のことが明らかになり、論文発表した。 まず、頭部を形成する前部エピブラストの細胞で、OTX2の作用によってSox2遺伝子のN2エンハンサーが活性化され、それらのN2活性化細胞が胚の中心軸に向って集合して神経系原基を作る。それらの神経系原基細胞の多くはさらに前方に移動して脳組織を作るが、N2活性を持っていた神経系原基細胞の一部は、OTX2の発現を停止するとともに、後方に移動して脊髄の細胞に発生する。このことから、神経系原基の中には、脳と脊髄のいずれにも発生できる細胞群が存在することが予想された。 マウスのエピブラスト幹細胞から神経幹細胞を樹立すると、樹立過程で作用するWntシグナルの強度を反映して、脳の前端(FOXG1発現)から体幹部の脊髄(HOXC9発現)に至るまで、胚の前後方向の様々な位置に対応する神経幹細胞株が得られた。あるグループの神経幹細胞株では、単一細胞内でOTX2(脳の性質)とHOXA7など脊髄固有の転写因子を同時に発現しており(単一細胞トランスクリプトーム解析による)、脳と脊髄のいずれにも発生できる細胞群が存在することが確認できた。 N2活性化細胞(神経系のみに発生する原基細胞)の中枢神経系形成への関与は胸部脊髄までにとどまり、より後部の脊髄は、神経系ー中胚葉共通前駆体から発生する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究自体は着実に目標に向かって進行しており、成果を上げている。しかし、以下の理由から、研究進展のペースは、当初計画よりは遅れている。(1)本研究の基盤となる論文の発表までに、想定以上の長い期間を要した(令和3年度)。これまでの通年を大幅に覆す研究結果であったために、多数の確証実験や追加解析を求められたためである。(2)令和4年度に実施した、エピブラスト幹細胞由来の神経幹細胞の解析では、当初計画にはなかった、単一細胞トランスクリプトーム解析を実施することが不可欠になった。その解析の準備とデータ解析に、長期間を要した。(3)令和5年度後半からは、ニワトリ胚への遺伝子導入実験を再開して、胚の中での細胞の挙動を詳細に解析する作業を進めている。現在の実験環境でライブイメージングを行う条件の最適化に数ヶ月を要した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要にも述べたように、脊髄の前側は、N2活性化細胞に由来し、脊髄の後側は、神経系ー中胚葉共通前駆体に由来することが明らかになった。神経系ー中胚葉共通前駆体はOTX2を発現せず、従ってN2エンハンサーを活性化しないエピブラスト細胞から生まれることが、令和5年の研究で示されている。 予備実験によれば、異なった細胞起源を持った脊髄組織は明確な境界を持つのではなく、前側から後側に向かって徐々に置き換わっている。これら、異なった起源を持つ神経組織が、どのようにして機能的な連続性をもつのかが、生物学的にも重要な、本研究の発展課題となっている。この課題をも包含する形で、ニワトリ胚の標識細胞のライブイメージングとマウスエピブラスト幹細胞を用いた胚モデルを中心とした研究を進めて、本研究としての大きな結論を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に述べたように、研究は着実に進行しながらも、いくつかの予期しなかった状況によって、研究の進行は、当初計画よりもやや遅れている。次年度使用額が生じた主な要因である。 令和6年度には、ニワトリ胚の標識細胞のライブイメージングとマウスエピブラスト幹細胞を用いた胚モデルを中心とした研究を進めるが、いずれの研究にも、免疫染色などの組織学的な解析とトランスクリプトーム解析が用いられる。次年度使用額の多くの部分は、これらの研究に充てる。
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