研究課題
Perry病は、パーキンソニズムとTDP-43異常凝集体を示す遺伝性神経変性疾患である。原因遺伝子産物DCTN1は、ダイニンモータを制御するアダプタ、ダイナクチン複合体の最大サブユニットである。Perry型変異部位の極近傍での別の変異で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に類似する運動ニューロン疾患が生じるため、DCTN1は複数の神経変性疾患の発症機構に関与する可能性がある。Perry病患者は極少数であり、病態解明にはモデル動物確立が急務とされたことから、Perry型変異を導入したDctn1(G71A)ノックインマウスを作成した。意外なことに、Perryマウスから調製した初代培養神経細胞の多数が、軸索を複数持つことを見出した。そこで、DCTN1変異体がTDP-43凝集体形成を誘導する仕組みを明らかにすると共に、軸索を1本に限定する仕組みの解明を目指している。本年度では、DCTN1がTDP-43に結合し、TDP-43凝集体形成を制御することを示した(International Journal of Molecular Sciences誌にて発表)。また、Dctn1(G71A)ノックインマウス(ヘテロ接合体)の神経病理学・動物行動学的解析を行い、本モデルがPerry病の初期過程を再現することを報告した(Neuroscience Letters誌にて発表)。一方、Dctn1(G71A)神経細胞が軸索を複数持つ現象の厳密な証明として、軸索マーカーTau1・SMI312抗体、樹状突起マーカーMAP2抗体を用いて免疫染色を行っている。1個の神経細胞が、軸索を複数持つ上に、軸索と樹状突起の存在様式が特徴的であった。現在その詳細を確認中である。これらの成果を足掛かりに、軸索を複数持つ神経細胞の回路では、回路パターンと動作機構がいかに変化し、神経変性が生じるかという観点から、解析したい。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、希少性神経変性疾患であるPerry病のマウスモデルを出発点として、神経極性形成機構と神経変性機構に迫るものである。本年度では、DCTN1変異が如何にしてTDP-43異常凝集体形成を惹起するか、新たな仕組みを示すことが出来た。また、DCTN1 (G71A)ノックインマウス(ヘテロ接合体)が、不完全ながらもPerry病の初期段階を再現するモデル動物としての有用性を示すことができ、2報の論文発表を達成した。また、我々にとってかなり意外な発見だったと言える、Perry型神経細胞が確かに軸索を複数持つ現象を確認することができた。加えて、胚性致死とも予想されていたホモ接合体マウスを誕生させることにようやく成功し、更に解析ツールとしての有用性が高まった。しかし、その一方で、Perry脳(in vivo)での神経細胞の存在様式の確認は、来年度に持ち越しとなった。以上の結果から、第一目標の成果発表に到達したと考える。
Perry病マウス由来の1個の神経細胞が、軸索を複数持つ上に、軸索と樹状突起の存在様式が特徴的であったため、in vitro, in vivoの両面で、神経細胞のイメージングが重要課題となる。全脳の透明化とwhole-mount免疫染色等による軸索・樹状突起の可視化技術、更に光シート顕微鏡を用いた実験に目途が立ったため、これらの技術を駆使した、脳イメージングを実施したい。また若い個体から高齢個体までを調べることで、神経変性が始まる前後での回路パターンの変化を追跡しつつ解析したい。また、個々の神経細胞を低密度培養し、超解像顕微鏡を用いて、in vitroレベルでの細胞形態を詳細に観察する実験手技を確立したい。加えて、Perryマウスの神経症状と知性に関しては、微小振戦検出機器とAIベースの行動解析ツールを用いて調べる予定である。これらの技術の確立と並行して、神経極性制御の分子機構の解析に取り組む予定である。TDP-43をはじめとするRNA結合タンパク質の関与に注目している。
消耗品の購入が想定よりも低額で、研究成果を纏めることができたため、次年度使用額が生じた。しかし、比較的少額なため、次年度の助成金と合わせて、当初の使用計画に基づいて使用する予定である。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 22 ページ: 3985
10.3390/ijms22083985.
Neuroscience Letters
巻: 764 ページ: 136234
10.1016/j.neulet.2021.136234.