研究課題/領域番号 |
21K06207
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤田 生水 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (80615138)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 神経幹細胞 / 放射状グリア / 大脳新皮質 / 神経発生 / OSVZ / 接着結合 |
研究実績の概要 |
本研究では,哺乳類の大脳皮質発生において,神経幹細胞が発生時期に応じて上皮構造の再生能を変化させることで組織の基本構造たる幹細胞の配置を転換させる現象に注目し,その背後にある細胞の集団的振舞いと細胞形態変化を統合的に理解することを目的とする。そのために,生組織イメージング等によって得られる幹細胞・前駆細胞の分裂,形態変化と移動,分化に関する定量値をもとに,細胞集団の動的な変化を再現する数理モデルを構築し,生体モデルとの比較・検証実験を通して,細胞分裂パターンと細胞形態変化が共役的に大脳皮質を構築する過程を明らかにすることを目指す。 本年度は,頂端面における細胞間接着のダイナミクスを定量化するするため,効率的な細胞のセグメンテーションと細胞系譜のトラッキングを可能とするプラットフォームを共同研究により構築した。また,大脳皮質の深部にまでわたる神経幹細胞の形態ダイナミクスを追跡するため,多光子顕微鏡観察に適した蛍光タンパク質を用いて細胞膜や細胞質を多様に標識するシステムを構築し,マウスES細胞を用いてその性能を評価した。 今後は,画像解析プラットフォームのさらなる効率化を図り,多光子顕微鏡観察に適した細胞標識を可能にするトランスジェニックマウスを作出する。また,細胞系譜と細胞動態を統合したシミュレーションのプロトタイプを構築し,in vivoの細胞の振る舞いと比較することで,モデルの妥当性を評価する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,頂端面における細胞間接着のダイナミクスを定量化する手法について進展があった。頂端面を可視化するEGFP-Plekha7トランスジェニックマウスを用いて取得した発生期大脳皮質のタイムラプス画像をもとに,効率的な細胞のセグメンテーションと細胞系譜のトラッキングを可能とするプラットフォームを共同研究により構築した。このプラットフォームは原理的に三次元の細胞形態を取得することも可能であるため,本研究の遂行に非常に有用である。 大脳皮質の深部にまでわたる神経幹細胞の形態ダイナミクスを追跡するためには多光子顕微鏡による観察が不可欠であるが,そのためには多光子顕微鏡観察に適した蛍光タンパク質等を用いて細胞膜や細胞質を標識する必要がある。また,神経幹細胞は密に接着しあっているため,細胞をまばらに,あるいは多様に蛍光標識することで,細胞のセグメンテーションを能率化できると考えられる。Cre-loxPシステムを応用し,多光子顕微鏡観察に適した多様な細胞標識を可能にするコンストラクトを作製した。細胞標識の性能を検証するため,このシステムを導入したマウスES細胞を作製した。in vitroで大脳皮質組織を分化誘導して,多光子顕微鏡により観察したところ,細胞の多様な標識が確認された。このシステムを導入したトランスジェニックマウスを作製することで,本研究を効率的に遂行できると期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に確立した画像解析プラットフォームのさらなる効率化を図り,頂端面の細胞接着ダイナミクスについてのデータ収集を継続する。多光子顕微鏡観察に適した細胞標識を可能にするトランスジェニックマウスを作出する。これらは,本研究を遂行する上で重要な技術開発である。 細胞系譜の数理モデルを構築するにあたり,現在既に利用可能な観察技法を用いて各種パラメータの計測を行う。未知のパラメータについては推定値を用いて,細胞系譜と細胞動態を統合したシミュレーションのプロトタイプを構築する。各種パラメータの変更実験等により,モデルの性質について分析を行う。また,シミュレーションの振る舞いとin vivoの細胞の振る舞いを比較し,モデルの妥当性を評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウスの作製等,大きな費用を要する実験を次年度に繰り越したため。 国際学会参加がオンラインになったため。
|