本研究では,哺乳類の大脳皮質発生において,細胞の集団的振舞いと細胞形態変化を統合的に理解することを目的とする。神経幹細胞が発生時期に応じて上皮構造の再生能を変化させることで組織の基本構造たる幹細胞の配置を転換させる現象に注目する。そのために,生組織イメージングや免疫組織化学実験等によって得られる幹細胞・前駆細胞の分裂,形態変化と移動,分化に関する定量値をもとに,細胞集団の動的な変化を再現する数理モデルを構築し,生体モデルとの比較・検証実験を行うことにより,細胞分裂パターンと細胞形態変化が共役的に大脳皮質を構築する過程を明らかにすることを目指す。 これまでの研究期間において,頂端面における細胞間接着のダイナミクスの定量化を目的とした,効率的な細胞セグメンテーションと細胞系譜トラッキングを可能とする解析プラットフォームを共同研究により構築した。このプラットフォームを用いて,神経産生期 (E13.5) における頂端面の神経幹細胞ダイナミクスを解析し,一定時間・一定区画に存在する全細胞の頂端面の形態や細胞同士の隣接と系譜についての定量的データを取得した。共同研究により,得られた定量データを時間発展ネットワークとして解析し,神経幹細胞のふるまいが近傍の細胞の分裂や分化に及ぼす影響について解析した。また,大脳皮質の深部にまでわたる神経幹細胞の形態ダイナミクスを追跡するため,多光子顕微鏡観察に適した蛍光タンパク質を用いて細胞膜や細胞質を多様に標識するシステムを構築した。本年度は上記成果の論文化を目指して,主に文献調査,解析環境の整備,モデル動物の維持,データの整理,執筆作業を行った。
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