研究課題/領域番号 |
21K06213
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
槻木 竜二 京都大学, 理学研究科, 助教 (50303805)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物幹細胞 |
研究実績の概要 |
植物では、器官形成が一生続けられる。器官形成に必要な幹細胞が一生を通じてアクティブということである。幹細胞らしさの分子実体は何か? それはどのように確立し、維持されるのか? 幹細胞から生じた娘細胞は、分化の際に幹細胞らしさをどのように失うのか?幹細胞らしさは独自の遺伝子発現プログラムにより成立すると考えられる。真核生物では、転写開始後の段階が遺伝子発現に特に重要であることがわかりつつある。植物幹細胞の分化は、転写開始後の段階で制御されているのか? そうであれば、どの遺伝子がどのように制御されているのか? シロイヌナズナにおいて、幹細胞らしさを負に制御するVAH遺伝子を見出している。vah機能欠損変異体では、幹細胞領域の拡大や異所的な形成が見られる。VAHは、CLV3とは別の経路で働き、茎頂の幹細胞らしさを正に制御するWUSCHEL(WUS)などの発現を負に制御する。 1)VAHタンパク質が他のタンパク質と複合体を形成し、機能していることを明らかにした。 2)vah変異体では、RNAポリメラーゼ IIの転写伸長動態に異常があることを見出した。 3)RNAポリメラーゼ IIと相互作用する転写共役因子の同定方法を確立した。転写共役因子として、RNAのプロセッシングに関わるもの、転写伸長に関わるもの、ヒストン修飾に関わるもの、ヒストンシャペロンなどを同定した。vah変異体では、RNAポリメラーゼ IIとヒストンシャペロンの相互作用に異常があることを見出した。また、同ヒストンシャペロンの特異抗体の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、VAHと共に働くタンパク質因子の同定に成功している。VAHとこれら因子は、植物幹細胞制御の観点からはほとんど解析されていない。また、VAHがRNAポリメラーゼIIの転写伸長過程の制御に関わることを示唆する結果を得ている。本研究を進めることにより、転写伸長過程における植物幹細胞分化制御についての新規な知見が得られると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、VAHと共に働くタンパク質因子を複数同定し、VAHがRNAポリメラーゼIIの転写伸長過程の調節に関わることが示唆されている。これらを踏まえ、以下の解析を進める。 1)VAHを介した転写伸長制御機構を明らかにするために、改良した抽出方法を用いて、VAHと共に働く因子の網羅的同定を進める。VAHを指標に免疫沈降を行い、質量分析によりVAHと相互作用する因子を分子同定する。 2)転写伸長中のRNAポリメラーゼIIの免疫沈降を行い、転写中のRNAポリメラーゼIIと相互作用する転写共役因子を網羅的に分子同定する。vah変異体と野生型を比較解析する。 3)vah変異体で、RNAポリメラーゼIIとの相互作用が異常なヒストンシャペロンを同定している。同タンパク質に対する特異抗体の作製にも成功しており、これを用いて、タンパク質複合体の免疫沈降を行う。vah変異体と野生型を比較解析する。 4)vah変異体と野生型で、転写伸長中のRNAポリメラーゼIIのクロマチン免疫沈降を行い、ゲノムワイドでRNAポリメラーゼII、同ヒストンシャペロンのゲノムへの結合状態を比較解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度までに、転写関連タンパク質などのタンパク質複合体を分子生化学的に解析する予定であったが、核タンパク質、特に転写に関わっている最中のタンパク質の抽出方法に改善が必要なことが判明し、その条件検討などを行なっていた。そのため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 芽生え等の通常の植物では、幹細胞領域が非常に限られており、幹細胞分化に関わる未知の転写因子の同定や解析には工夫が必要であった。また、転写に実際に従事しているタンパク質群はクロマチンと結合していると予想され、タンパク質複合体を維持したまま、効率よく抽出する方法にも工夫が必要であった。令和4年度までに、組織培養を材料に、より優れたタンパク質複合体の抽出方法を確立した。この系を用いて、幹細胞分化に関わる転写関連因子の生化学的解析や分子生物学的解析を行い、新規因子の同定と解析を進める。
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備考 |
京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 植物学教室・年報(2022 年度) http://www.biol.sci.kyoto-u.ac.jp/botany/annual/b5_iden_2022/
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