研究課題/領域番号 |
21K06217
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小澤 真一郎 岡山大学, 資源植物科学研究所, 特任助教 (80717538)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Photosynthetic control / シトクロムb6f複合体 / LHCI |
研究実績の概要 |
光合成明反応では電子伝達と集光性アンテナによる光エネルギー利用効率が適切に制御されることが重要となる。本研究では両者の相関を明らかにすることをめざす。広い範囲の光強度で適切に電子伝達を制御し光合成を行ない、遺伝子情報が整備され遺伝子改変も可能な緑藻クラミドモナスを材料とする。 強光下でチラコイド膜ルーメンが過度に酸性化するとPhotosynthetic controlが誘導され電子伝達活性を抑制し光合成器官の損傷を防ぐと考えられている。シロイヌナズナの pgr1 変異株は、より弱いルーメン酸性化で電子伝達速度が抑制されるため、プロトン駆動力の形成が不十分となり、NPQの誘導が低下する。緑藻クラミドモナスにシロイヌナズナpgr1変異に相当する変異を導入したPETC-P171L株を作出し解析した。PETC-P171L株はシロイヌナズナよりも低い光強度下でPhotosynthetic controlが誘導された。またPETC-P171L株は強光下で光合成的生育速度が低下し、NPQ誘導が低下することを見いだした。 緑藻クラミドモナスの光化学系I複合体(PSI)に結合するアンテナタンパク質複合体(LHCI)は高い光エネルギー利用調節機能をもつことが構造から示唆された。緑藻クラミドモナスのLHCIを構成するサブユニットをコードする9種類の遺伝子のうち7種類の遺伝子について、それぞれの単一遺伝子欠損株を解析した。細胞の蛍光発光スペクトルを液体窒素温度で測定すると、LHCA3またはLHCA7欠損株において700 nm近傍の成分が野生株と比較して短波長側へシフトしシグナル強度も大きかった。さらにこれらの欠損株からPSIを精製すると、LHCIの構造が不安定となっていた。よってLHCA3またはLHCA7欠損はLHCIの構造を不安定化しLHCIからPSIへのエネルギー移動効率が低下すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナ pgr1 変異に相当する変異を導入した緑藻クラミドモナスのPETC-P171L株の解析によって、緑藻ではPhotosynthetic controlが植物で観察されるよりも弱い光強度で確立することを見いだした。一方で、LHCIサブユニットをコードする遺伝子欠損株を用いた解析によって、緑藻クラミドモナスのLHCA3とLHCA7がLHCIの構造安定化に重要であることを見いだした。以上の2項目より次年度以降の基盤形成は行なわれている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得た結果と確立した手法を駆使して、強光下など光合成の電子伝達制御が行なわれるときの動的なLHCI構造変化を生化学的に解析する一方で、LHCI遺伝子欠損株でどのような電子伝達制御機構が機能するかを明らかにする。並行して解析に有益な変異株作成も継続する。
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