研究課題
前年度に引き続き,緑色硫黄細菌Chlorobaculum tepidumで発生する嫌気的な光阻害現象について,その発生メカニズムの詳細な解析を推し進めた。前年度までの研究成果により,光合成反応中心(RC)複合体の内部でカロテノイドの三重項励起状態(Car-T1)が生成されることを突きとめている。その生成反応とバクテリオクロロフィル(BChl)aの励起状態の消光機構との関係,およびそのエネルギー移動反応へのカロテノイド配糖体の関与を,超高速の過渡吸収スペクトルによって調べた。カロテノイド配糖体を欠損しているcruC変異株から精製したRC複合体で起こるエネルギー移動反応を解析した結果,野生型のRC複合体で観測されたCar-T1生成に繋がるBChl aの励起状態の減衰が,cruC変異株では観測されないことがわかった。その一方で,野生型のRC複合体では観測されていなかった別の速いエネルギー移動反応が観測されたことから,cruC変異株では,カロテノイド配糖体の欠損によってRC複合体の立体構造が局所的に変化し,Car-T1生成に繋がるエネルギー移動経路が失われていることが考えられた。一方,増殖速度を基に作成したC. tepidumの光-光合成曲線では,前年度までの研究から,硫化物酸化で生成する中間代謝物が嫌気的な光阻害現象を引き起こす原因物質であることが示唆されていた。培地に無機的な過硫化物を添加すると硫化物の添加と同様の増殖抑制効果が観測されたことから,サルフェン硫黄(酸化数ゼロの硫黄原子)を含む化合物が細胞毒性を引き起こすことが支持された。しかし,cruC変異株で新たに見出したエネルギー移動反応との関係の解明までには至らず,サルフェン硫黄を含む化合物が光阻害現象を引き起こす具体的な反応機構は今後の課題として残った。
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The Journal of Physical Chemistry B
巻: 128 ページ: 731~743
10.1021/acs.jpcb.3c07424