研究課題/領域番号 |
21K06227
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹原 清日 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 研究機関研究員 (70614139)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ジベレリン / 植物ホルモン / 植物成長調整剤 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
プロヘキサジオン (PHX) カルシウム塩は、2-オキソグルタル酸 (2OG) 要求性酸化酵素に属する酵素 (2ODD) に対する植物成長調整剤(植調剤)であり、伸長や開花などの生理機能を促進・抑制することによって生産性や品質の向上をねらうことなどを目的に広く利用されている。しかしながら、PHXカルシウム塩を含めた植調剤及びターゲットとなるタンパク質の構造解析に基づいた新規植調剤の開発や新たな分子育種の方法を探索しているものはほとんどない。そこで本課題では、植物ホルモンの一つであるジベレリンの生合成 (GA3ox) 及び不活化酵素 (GA2ox) をターゲットとして、植物におけるタンパク質-化合物間の構造活性相関ならびに活性制御機構を明らかにすることを目的とした。また、2ODDであるGA3oxとGA2ox両酵素ともPHXの阻害作用を受けるが、イネにおいてはPHX処理によって節間伸長の抑制が確認されることから、GA生合成の阻害、すなわちGA3oxがより強い阻害作用を受けていると考えられる。そこで、反応性の違いを調べるためPHXとの共結晶構造解析を行い、重要なアミノ酸を見出した。また、PHXに対する反応性を詳細に調べるため、阻害活性測定や形質転換体イネによる調査も行なった。さらに、PHXに対してイネとは逆の反応を示すストック植物の各酵素についてゲノム情報を取得し、酵素活性やin vivoにおける実験を進め、植物種による反応性の違いを見出すとともに更なる植調剤の応用を探った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、生合成酵素OsGA3ox2、代謝酵素GA2ox3についてPHXに対する阻害定数Kiを測定したところ、GA3oxの方が低く、確かにGA3oxの方がPHXに対する親和性が高いことが確認された。さらに、PHXとの共結晶構造解析にも成功し、GA3ox2については1.8 Åの反射を得て精密化を行った。 一方、GA2ox3は現在のところ3.3 Åの反射が得られているが、さらに高分解能を目指しスクリーニング中である。 OsGA3ox2の構造決定を行った結果、PHXが活性ポケット内において本来の補基質である2OGが結合するアミノ酸残基と結合していることが確認され、PHXが2OGと競合的に働いていることが裏付けされた。また、OsGA3ox2-PHX複合体とOsGA2ox3-PHX複合体を比較すると、OsGA2ox3では活性中心において疎水性アミノ酸残基とPHXが立体障害を生じている可能性が示唆された。そこで、OsGA2ox3のこのアミノ酸残基を阻害されやすいGA3ox型に改変した変異体酵素を作出し、阻害定数を測定したところ、OsGA2ox3-WTと比較して約18倍もPHXとの親和性が増加していることが分かった。一方、阻害されにくいGA2ox型に改変したGA3oxの変異体酵素では、約17倍もPHXとの親和性が低下していることが明らかとなり、このアミノ酸残基が両酵素間での阻害様式の違いを生み出す一因となっていることが示唆された。 さらに、PHXに対してイネとは逆の反応するストック植物の各酵素についてゲノム情報を取得し、酵素活性やin vivoにおける実験を行い、反応性の違いを生み出すアミノ酸の特定を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度はGA2ox3とPHXとの共結晶化を進め、さらに高分解能の解析データを得て、PHXとの結合様式を明らかにする。得られた構造からどのような官能基あるいは構造がそれぞれの酵素を阻害するのかをより明確に解析し、GA3oxのみに選択性を高める、またはその逆の作用をする植調剤の構造を予想し、植調剤創成の基盤情報とする。さらに、イネ及びストック植物において阻害剤との結合に必要なアミノ酸を特定し、それらを変化させた変異型リコンビナントタンパク質を作製して反応性の違いを調べる。また、形質転換体イネにおける反応性を調べるため、OsGA2ox3ノックアウト変異体の種子を用いて重要なアミノ酸置換を導入した形質転換体を作製し、PHXに対する反応性や構造解析等の結果を合わせて新規阻害剤の検討を行う。
|