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2021 年度 実施状況報告書

陸上植物における単相世代での性決定システムの進化

研究課題

研究課題/領域番号 21K06228
研究機関京都大学

研究代表者

安居 佑季子  京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90724758)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードゼニゴケ / 性決定 / 雌性化 / 有性生殖誘導 / 性染色体進化
研究実績の概要

性決定は雌雄を持つ生物にとって共通のイベントであるが、そのメカニズムは多様性に富んでいることが知られている。植物でも、種子植物の性決定因子が複数報告され、その多様性が明らかにされてきている。陸上植物の基部で分岐したコケ植物苔類ゼニゴケにおいて、雌の性染色体にコードされるMpBPCUを性決定因子として報告した。雄の性染色体上には性染色体間相同遺伝子であるMpBPCVが存在しており、MpBPCUとMpBPCVは共通して有性生殖誘導に機能することが明らかになった。系統解析の結果から、コケ植物に属する、タイ類、セン類、ツノゴケ類のBPCはそれぞれ別のクレードに、さらにタイ類はBPCU型とBPCV型に分かれることがわかった。これらから、BPCU型とBPCV型は、タイ類が分岐した後に機能分化したと考えられた。苔類のBPCが進化の過程でどのように機能分化してきたかを明らかにするため、セン類のヒメツリガネゴケのBPCに着目して、解析を進めた。ゼニゴケのMpbpcU変異体にヒメツリガネゴケのPpBPCを発現させ、機能の保存性を解析すると同時に、ヒメツリガネゴケにおいてPpBPCの過剰発現株とノックアウト株を作出し、表現型の解析を行なった。その結果、タイ類とセン類の共通祖先においてBPCは分子的には雌性化能と有性生殖誘導能の両方を持っており、苔類の進化の過程でBPCVが雌性化能を失ったことが示唆された。さらに雌雄同株の苔類アカゼニゴケを用いた解析を進めるため、その研究基盤となる生活環を通しての生育条件の検討を行なった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

セン類のヒメツリガネゴケのBPCに関する解析を中心に進めた。ヒメツリガネゴケはBPCを1遺伝子のみもち、このPpBPCをゼニゴケのMpbpcU変異体に形質導入したところ、雌の生殖器托が形成され、PpBPCが雌性化能と有性生殖誘導能のどちらも持っていることが明らかになった。この結果から、タイ類とセン類の共通祖先においてBPCは分子的には雌性化能と有性生殖誘導能の両方を持っていたが、苔類の進化の過程でBPCV型が雌性化能を失ったことが示唆された。また、ヒメツリガネゴケにおいてPpBPCを過剰発現させた株を取得し表現型解析を行なったところ、生殖器の発生が十分に起こらず途中で止まる表現型が見られた。一方でヒメツリガネゴケにおけるPpBPCノックアウト株では生殖器の発生を含む植物の発生は正常であった。このことから、ヒメツリガネゴケにおいては、PpBPCは雌性化能と有性生殖誘導能の両方の機能が失なわれていると考えられ、進化の過程で他の因子がそれらの機能を担うようになったことが示唆された。雌雄同株である苔類アカゼニゴケはBPCU型とBPCV型の両方を持っていることをこれまでに確認していた。アカゼニゴケの生活環を研究室内で回せるように条件検討を行ない、雌と雄の生殖器をそれぞれ形成させる条件を見つけることに成功した。

今後の研究の推進方策

これまでに、タイ類、セン類の共通祖先において、BPCは雌性化能と有性生殖誘導能のどちらも持っていたことが示唆されている。一方で、セン類のヒメツリガネゴケではBPCのそれら機能は失われていると考えられた。そこで、今年度は、苔植物のもう一つの系統群である、ツノゴケ類のナガサキツノゴケのBPCを用いた解析を進める予定である。ゼニゴケのMpbpcU変異体において、ツノゴケのBPCを発現させる形質導入を現在既に進め出している。また、シロイヌナズナは BPCを7遺伝子もち、その一部は卵細胞を含む胚珠の発生を制御することが知られる。これらシロイヌナズナのBPCがゼニゴケでも機能し得るかを解析し、また、それらの配列を詳細に比較することで、植物進化の中でのBPC機能の変化を考察する。またアカゼニゴケにおいては、BPCUとBPCVの発現解析を組織別、生育条件別に行なうことで、雌性化のメカニズムがゼニゴケと保存されているかを解析する。またアカゼニゴケにおける形質転換法も検討する予定である。

次年度使用額が生じた理由

解析を進める中で、研究計画の順番を一部変更すべき状況が生じたため、研究費の使用に変更が生じた。使用が遅れた研究費については次年度、当初の計画通りに使用する予定である。また、参加を計画していた学会がオンライン開催になったため、旅費の使用がなくなった。次年度に行なう研究に関わる研究打ち合わせの旅費等に充てる予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Identification of the sex-determining factor in the liverwort Marchantia polymorpha reveals unique evolution of sex chromosomes in a haploid system2021

    • 著者名/発表者名
      Iwasaki M、Kajiwara T、Yasui Y、Yoshitake Y、Miyazaki M、Kawamura S、Suetsugu N、Nishihama R、Yamaoka S、Wanke D、Hashimoto K、Kuchitsu K、Montgomery SA.、Singh S、Tanizawa Y、Yagura M、Mochizuki T、Sakamoto M、Nakamura Y、Liu C、Berger F、Yamato KT.、Bowman JL.、Kohchi T
    • 雑誌名

      Current Biology

      巻: 31 ページ: 5522~5532.e7

    • DOI

      10.1016/j.cub.2021.10.023

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] ゼニゴケとヒメツリガネゴケを用いた植物のGAGA結合タンパク質の機能進化の解析2021

    • 著者名/発表者名
      安居 佑季子, 井上 慎子, 田中 知葉, 岩崎 美雪, 川井 絢子, 養老 瑛美子, 榊原 恵子, 河内 孝之
    • 学会等名
      日本植物学会 第85回大会

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公開日: 2022-12-28  

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