研究課題/領域番号 |
21K06230
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高見 常明 岡山大学, 資源植物科学研究所, 技術職員 (70614254)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オルガネラDNA / 老化 / 葉緑体 / 光合成 |
研究実績の概要 |
葉緑体は独自のDNAを持ち、かつそのコピー数が組織により変動または消失することが報告されている。これは何らかの理由で組織特異的に分解されることを示唆している。「花粉のオルガネラDNAが分解されない」dpd1変異体はオルガネラヌクレアーゼDPD1の機能を欠損しており、葉における葉緑体DNA分解が抑制され、老化が遅延する。これは葉緑体DNA分解された後、葉の老化が進行することを示唆している。本研究では植物の老化と葉緑体DNA分解の関係性を明らかにすることを目的している。 前年度の結果を踏まえて約800遺伝子がatg5 dpd1二重変異株でみられる早枯れ表現型の抑制に関連していることをロジスティック線形回帰分析から見出した。その遺伝子群の中には老化過程において発現誘導されるものもあった。DPD1はDNAを分解する酵素であることから、DNAの分解産物がシグナル因子として機能しているという作業仮説を立てGO解析により代謝関連遺伝子群に着目して精査した。その結果、プリン・ピリミジン代謝やリボソームに関連したGO termを取得した。この結果を踏まえて、それらに関連した代謝阻害剤による老化過程への影響を調査した。その結果、プリン・ピリミジン代謝を阻害することにより、atg5 dpd1二重変異株でみられる早枯れ抑制表現型が抑圧されることが明らかとなった。またイネDPD1遺伝子の発現解析を行ったところシロイヌナズナDPD1とは異なり、葉の老化過程よりも花粉で強く発現しており、加えてイネDPD1破壊株を用いた解析からオルガネラDNA分解に関しても花粉において積極的にオルガネラDNAを分解していることが明らかとなった。またリン欠乏に対する遺伝子発現は野生株と大きく変わらなかった。これらの結果は双子葉植物と単子葉植物においてDPD1が機能する条件、組織に違いがあることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに得られたatg5 dpd1二重変異株において老化抑制に働く遺伝子群についてロジスティック線形回帰分析を行い、マーカー遺伝子の絞り込みを行ったところ、老化表現型とよく相関する遺伝子を見いだすことに成功した。またGO解析からatg5 dpd1二重変異株で抑制されていた早枯れ表現型を撹乱する化合物の見出すことができた。次年度はこれらの結果をもとにシグナル因子の同定を試みる。イネDPD1破壊株を用いた解析については前年度までに十分な予備的結果が得られていたため本年度では本格的な実験が行え、予定していた解析は終了した。イネDPD1破壊株の解析からイネDPD1はシロイヌナズナDPD1とは異なり、葉の老化過程よりも花粉で強く発現しており、オルガネラDNAの分解についても主に花粉で機能していることが明らかとなった。加えてシロイヌナズナdpd1変異株でみられたリン欠乏下でのリン欠乏応答遺伝子群の発現低下はイネDPD1破壊株では確認できず、野生株と同等の応答していた。これらの結果から、双子葉植物と単子葉植物ではDPD1の機能する組織や条件が異なっていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
トランスクリプトーム解析で得られた早期老化抑制遺伝子群からロジスティック回帰の手法によりマーカー遺伝子の絞り込みを行い、いくつかの指標となる遺伝子を単離した。またトランスクリプトーム解析結果を精査したところatg5 dpd1二重変異株で観察される早枯れ抑制の表現型を撹乱する化合物を見出した。これらの結果を踏まえて次年度はシグナル因子の同定を試みる。 イネDPD1への研究展開についてはこれまでに得られていた予備的結果をもとに実験を行い、イネDPD1破壊株の表現型解析がほぼ終了した。シロイヌナズナdpd1変異体と同じように花粉オルガネラDNAの分解に関わっている一方、老化遅延やリン欠乏応答等に関してはほぼ寄与していないことが示唆された。次年度においては農業形質等の再現性確認を主に行う。
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