研究実績の概要 |
シロイヌナズナFT 遺伝子発現制御機構について,新奇ゲノム編集技術を適用することで,本来のゲノム上でのcis-elementの機能解析・エピジェネティック発現制御機構の解明を目的とする.シロイヌナズナのFT 遺伝子は,花成制御だけでなく,分枝・塊茎形成等広範な生理作用に関与する.このことは,FT 遺伝子の発現が「タイミング・場所・量」において精密に制御されていることを示唆する.この遺伝子発現制御において重要な役割を果たすのが,cis-elementやエピジェネティック情報である.本申請研究では,まず,新奇ゲノム編集技術を用いてFT 遺伝子のゲノム上のcis-elementを直接編集し,その機能の解明をおこなう.実施にはPAM (protospacer adjacent motif) による標的配列の制限を緩和したSpCas9-NGv1 (Endo et al., Nature Plants, 2019) を用いる.これによりピンポイントでの変異導入が可能となる.FT遺伝子のpromoter領域にはCCAAT, MYC-3, E-box, CORE1, CORE2などのcis-elementの報告がある.これに加えて,CCAATとして7つの候補を加えて標的cis-elementとする.平行して,エピゲノム編集技術の開発を進め,エピゲノム編集によりFT 遺伝子の発現を制御することを目指す.これまでのシロイヌナズナによる研究成果は,分子遺伝学的解析が難しいとされる園芸作物・果樹など広範な植物に応用されてきた.申請者らは,愛媛の主要農産物である柑橘に,本申請研究で得られた成果を適用することを念頭に研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度,SpCas9-NGv1を用いて,次の8つの標的cis-elements(CCAAT0, CCAAT1, CCAAT3, CCAAT4, CCAAT8, E-box, CORE1, CORE2)に変異を導入することに成功した.いずれも数塩基の挿入あるいは欠失で予測通りの変異パターンであった.これらのT3世代を用いて花成測定をおこなったところ,転写開始点より5.3kb上流にあるCCAAT1にチミンの一塩基挿入が生じたCCATT1変異体では,野生型と比較して有意な花成遅延が観察された.DNA配列上ではCCAAT1配列と転写開始点領域は非常に離れているが,核内での空間的には非常に近い位置にあって,FT遺伝子発現制御に関わることを示す証拠である.一方で,CCATT1の近傍にあるCCAAT0と転写開始点から約3.0kb上流にあるCCAAT3, CCAAT4での変異体では,花成への影響は観察できなかった.この結果は,CCAAT1に相互作用する転写因子は,同じCCAAT配列をもつにも関わらずCCAAT0, CCAAT3, CCAAT4とには相互作用しないという特異性を示唆するものである.また,これまでに,FT遺伝子の発現制御において重要であると考えられていたE-box, CORE2の変異体では,明瞭な花成遅延の表現形は観察できなかった.単独の変異に加えて,二重変異体の作製にも成功している.特筆するべきは,CCAAT1;CORE1の二重変異体はFTのnull変異体であるft-2とほぼ同程度の花成遅延表現形を示した.
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