研究実績の概要 |
令和5年度は、①ヨモギ虫こぶの組織切片による維管束構造の解析、②ヨモギ虫こぶの抗酸化作用の検証、③ヨモギ虫こぶ形成昆虫の分子系統解析を行った。①ヨモギの葉と茎にできる4つの虫こぶについて、組織切片とフロログルシノール染色により、虫こぶ内のリグニン化部位を明らかにした。葉にできる虫こぶのうち、エボシでは虫室周辺細胞がリグニン化していたが、ケタマでは顕著なリグニン化は観察されなかった。いずれの虫こぶでも、ホスト植物と虫室をつなぐ維管束が形成されていた。一方、茎にできるコブ・ワタでは、虫室周辺細胞がリグニン化しており、また虫室はホスト植物の維管束の一部から形成されていた。②ヨモギは古より薬用・食用に使われており、葉にルテインやクロロゲン酸等の抗酸化物質を含有することが知られている。また、葉の腺毛はもぐさ(お灸)として利用されることから、腺毛に有用成分を蓄積する可能性が考えられる。腺毛を高密度で形成する茎ワタを採集し、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)アッセイによって抗酸化作用を調べたところ、葉に匹敵する程度の抗酸化作用があることが分かった。そこで、LC-MSによってルテインを定量したが、こちらは葉の10分の1程度の含有量であったことから、虫こぶ腺毛の抗酸化作用は他の物質が関与していることが示唆された。③ヨモギ虫こぶ形成昆虫であるタマバエからDNAを抽出し、ミトコンドリアCOI遺伝子のシーケンスによって分子系統解析を行った。その結果、葉ケタマと茎ワタ、葉エボシと茎コブが近縁であり、また茎ワタ1個体が茎コブに近い配列を示すなど、虫こぶの形成場所や形態と分子系統の間には関連性が無いことが示唆された。
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