研究課題/領域番号 |
21K06249
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小林 勇喜 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 助教 (80736421)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / Gタンパク質共役型受容体 / 神経ペプチドY / 摂食 |
研究実績の概要 |
一次繊毛は、血球細胞を除くほとんどの細胞が一本のみ保有するオルガネラであり、繊毛膜に発現する受容体を介して細胞外環境を検知するセルセンサーとして働く。作用機序に謎は多いが、その攪乱は肥満など様々な疾患と結びつく。また、一次繊毛の根元には移行帯と呼ばれるバリア構造があり、繊毛内または膜へ輸送されるのは、幾つかのGタンパク質共役型受容体(GPCR)を含む限られた分子のみである。これまで生命現象の根幹を担う細胞内シグナルの解析は、細胞膜上に発現した受容体を介して研究が進められてきた。これは、培養細胞作出の過程でほとんどの細胞の一次繊毛が退化してしまうことに起因する。しかし近年、摂食に関与する複数のGPCRが細胞膜ではなく、一次繊毛膜特異的に発現するという報告がなされた。そこで申請者は、一次繊毛局在型GPCRの生理機能を真に解明するためには、「一次繊毛という特異なオルガネラに局在する受容体の特徴的なシグナル経路」を明らかにすることの重要性を提唱する。本申請では、一次繊毛を保有する特殊な培養細胞を用いて、強力な摂食調節機構を仲介する一次繊毛局在型GPCRである神経ペプチドY受容体(NPY2Rと5R)の解析を通して、摂食・エネルギー代謝機構解明のブレイクスルーを目指した。2年目である本年度は、繊毛縮退経路の一部を明らかにした2Rに着目し、縮退に関する候補遺伝子をRNAseqにより解析すると共に、2Rをマウス脳で検出可能な抗体のセレクションを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにNPY2R陽性一次繊毛をリガンドであるNPYで刺激すると、繊毛が短くなる縮退と繊毛から2Rが排出される現象を見出している。また、本現象にGタンパク質であるGi/o、AktおよびJNKのリン酸化が関わることも明らかにした。しかし、縮退現象はリガンド刺激後、3から6時間で生じることから遺伝子の転写翻訳を介している可能性が考えられた。そこで、RNAseqにより、リガンド未処理と処理したサンプル間で網羅的に遺伝子変動を解析した。さらに、定量PCRにより、リガンド刺激のタイムコースと遺伝子変動が対応する遺伝子を絞り候補分子を選出した①。 これまでの研究は、モデル細胞(ヒト網膜色素上皮細胞:hRPE-1)を用いて行っている。生体内においても実際に生じる現象であるかを証明するために、既存のNPY2R抗体を用いて検出を行ったが、染色シグナルが非常に弱く、本現象の解析は困難であった。そこで、げっ歯類の脳切片上で、より効率よくワークする抗体の選出を試みた。一次繊毛膜上のNPY2Rの検出は困難を極めたが(繊毛が細くNPY2Rが属するGPCRの立体構造が複雑なため)、マウスおよびラットの脳切片においてNPY2Rを線状にかつ明瞭に検出可能であり、今後の繊毛研究に耐えうる抗体の選出に成功した②。
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今後の研究の推進方策 |
①に関して:培養細胞であるhRPE-1細胞において、絞り込んだ候補分子のノックアウト(KO)細胞をCRISPR-Cas9により作出する。また、siRNAにより候補分子のノックダウン(KD)を試みる。これら細胞を用いて、NPY-NPY2Rを介した一次繊毛の応答を調べる。加えて、KO・KDした遺伝子のレスキュー実験を併用し、縮退およびNPY2Rの排出現象に関わる分子の同定を目標とする。 ②に関して:選出した抗体とげっ歯類の脳を用いて、Ex-vivoおよびvivoの実験を行う。具体的には、ラット視床下部分散培養系とマウス視床下部のスライス培養系を用いて、hRPE1細胞と同様に、NPY刺激により、繊毛縮退や繊毛保有細胞の減少が見られるかを評価する。また、阻害剤を併用することで、RPE-1と同様の経路で本現象が生じているかも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度実施予定の実験経費を概算したところ、配分額を超過することが予測された。そのため、本年度は可能な限り切り詰めて研究を行い、残額を次年度使用分 として合算使用としたい。合算した予算は、げっ歯類の購入、海馬特殊スライス培養膜、各種抗体、ゲノム編集用経費、siRNAなどの購入に充てる予定である。
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