研究課題/領域番号 |
21K06250
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
金田 剛史 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 講師 (70301752)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 蔓植物 / アサガオ / 植物ホルモン / 微小管 / 回旋運動 / オーキシン / ジベレリン |
研究実績の概要 |
蔓植物には、園芸・教育上および農業的に有用な植物が多数ある。蔓植物にとって光合成に利用する光を十分に得られるよう上方へよじ登る手段である“蔓の巻き付き”は生存するために重要な形態形成であるが、その仕組みについては現在に至るまでほとんど明らかにされていない。本研究は、蔓が支柱に“巻き付く”という特殊な形態をとる仕組みについて生理学的および分子生物学的な手法により明らかにし、有用な蔓植物を有効に活用するための基盤となる知見を得ることを目的としている。 当該年度は、オーキシン応答性プロモーターの制御下にマーカーとしてβ-グルクロニダーゼ(GUS)の遺伝子をつないで導入し当研究室で作製したアサガオの形質転換体を利用し、蔓の巻き付きの際にオーキシンが働いている組織を特定するための研究を進めた。この形質転換体が重力屈性の際にオーキシンが働く組織の検出に利用できることを確認した上で、アサガオの蔓の巻き付きの際には上端付近のフック状に蔓が屈曲した部分でオーキシンが作用しているということを見出した。 この蔓の巻き付きについて定量的な実験を行うためにアサガオの植物体から切り出した蔓を利用しているが、伸長や巻き付きを再現するためには植物ホルモンの一種であるジベレリンを投与する必要がある。このジベレリンを投与した切り出した蔓の細胞では、植物の細胞伸長の方向の制御に関わっている細胞内のタンパク質繊維である細胞質表層微小管が横向きに配向することが分かった。さらに、この蔓の伸長および巻き付きが、活性型ジベレリンの前駆物質であるGA20の投与によっても引き起こされることも分かった。今後、ジベレリンの巻き付きにおける役割を解明するために、蔓に植物体のどこからジベレリンが供給されどこで活性型に変換されるのか、そしてジベレリンのどのような作用が巻き付きを助けているのかについて調べていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蔓の巻き付きに関連した植物ホルモンの探索およびその働きの解析について、オーキシンの局在解析に強力なツールとなるオーキシン応答性プロモーターの制御下にマーカーとしてβ-グルクロニダーゼ(GUS)の遺伝子をつないで導入し当研究室で作製したアサガオの形質転換体について、重力屈性の際にオーキシンの働く組織の検出に利用できることを確認し、種子の採取により解析に十分な個体数を確保することもできた。巻き付きの際にオーキシンの働く組織の検出を現在進めている。 当該年度には、オーキシンとは別の植物ホルモンであるジベレリンについての解析も開始した。アサガオの植物体から切り出した蔓においては、伸長や巻き付きを再現するためにはジベレリンを投与する必要がある。また、このジベレリンを投与した切り出した蔓の細胞では、細胞壁のセルロース微繊維の配置の決定を介して植物の細胞伸長の方向の制御に関わっている細胞質表層微小管が横向きに配向することが分かった。さらに。この蔓の伸長および巻き付きは、活性型ジベレリンであるGA1の前駆物質であるGA20の投与によっても引き起こされることも分かった。これらの結果から、今後、ジベレリンについてもその巻き付きにおける役割を解明するための課題も見つかり、研究を進めていく方針を考えるきっかけをつかめた。 加えて、アサガオの形質転換体の作製法についても、液体培養を用いる方法で効率よく形質転換体をえられる条件を見出すことができた。 全体を通して、形質転換体の増殖や切片系の検討等の準備を主に進めたため、当該年度には発表できる成果は得られなかったが、それぞれ研究に進展があり形質転換体を利用した解析が始められる体制も整いつつあることから、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
オーキシンが作用する組織を確認できるアサガオの形質転換体を用いて、巻き付きとオーキシンの働きとの関係についてさらに調査を行う予定である。また、オーキシン阻害剤で処理を行ったときの蔓の挙動の変化についても調べ、オーキシンが蔓の巻き付きにおいてどのような働きをしているのかについての解析を行う。 蔓の伸長や巻き付きに必要だと考えられるジベレリンについても、今後、蔓における生合成や輸送についての調査をさらに進める。具体的には、切り出した蔓を用いた実験系を利用して、GA20投与の際に伸長の起こる部位の特定や、ジベレリン合成阻害剤の局所的な処理の効果の確認などを行った後、ジベレリン生合成に関わる酵素の遺伝子についてその発現のレベルの変化や組織局在などの解析も進めて行く予定である。また、ジベレリンのどのような作用が蔓の巻き付きに関与しているのかという点についても調査を行う。ジベレリンに細胞質表層微小管の配向を変化させる作用があることに着目し、間接蛍光抗体法による微小管の染色・観察などを行い、蔓の巻き付きについて細胞レベルで仕組みの解明を目指す。 アサガオの研究を効率よく進めるために、アサガオの形質転換法についても検討は引き続き続けるが、現時点である程度効率よく形質転換体を作製する条件を見出すことができている。今後はこれを活用して、オーキシン以外の植物ホルモンの解析に利用できる形質転換アサガオの作出や、微小管の観察に利用できる形質転換体の作製も進め、巻き付きに関して植物ホルモンとの関連性や細胞レベルでのメカニズムの解析に利用していく予定である。
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