研究課題/領域番号 |
21K06252
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
広瀬 裕一 琉球大学, 理学部, 教授 (30241772)
|
研究分担者 |
酒井 大輔 北見工業大学, 工学部, 准教授 (10534232)
上杉 薫 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 助教 (20737027)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ナノ構造 / 水棲生物 / 表面物性 / バイオミメティクス |
研究実績の概要 |
本研究は生物体表のナノ構造の水中における機能を検証することを目的としており、水棲無脊椎動物に認められるナノ構造を模倣した合成材料を利用して、水中における表面物性の実測を通して、ナノ構造の機能性を明らかにするものである。 空気中ではナノ構造表面の接着力が平滑面よりも小さいことから、昆虫体表に見られるナノスケールのニップルアレイ構造には防汚機能があると推定されている。水棲生物の体表からもニップルアレイ構造は知られているが、水中での接着力は空気中よりも小さいと考えられ、同様な機能があるかどうか検証されていない。2021年度はナノスケールのニップルアレイ構造を持つ合成材料モスマイトを用いて、水中におけるナノ構造表面の吸着力・接着力の計測法の確立と実測を行った。計測には二酸化珪素の球(直径4 μm)をプローブとした原子間力顕微鏡を用いた。 ナノ構造表面と同一素材の平滑表面における計測を比較したところ、ナノ構造表面の吸着力・接着力はともに平滑面よりも有意に小さいことが明らかとなった。このことから、ナノ構造表面では、微粒子が表面に付着が抑制されると考えられる。つまり、体表にナノ構造を持つ生物では、泥の粒子など微小なゴミが付着しにくくなっていると考えられる。 同様に、摩擦力についても計測の検討を行った。摩擦力は接着力よりも大きいため、2軸センサを用いた計測装置を開発中である。 また、水棲生物体表のナノ構造の模倣材料としてナノスケールの褶曲の周期構造の作成に成功し、計測等に利用できる数量を準備できる見通しが立てられるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の年度目的であった、ナノスケールのニップルアレイの水中における接着力の計測に成功した。さらに、吸着力の計測にも成功した。吸着力は接着力よりも小さいため、これが計測できたのは予想以上の成果である。計測結果をもとに、ナノ構造が水中でも防汚機能を持つことが支持された。水中における防汚機能としては新知見となる。国際学会でこの成果を発表しただけでなく、論文が国際誌に受理され、既に公開に至っている。以上より、当初計画以上の進展であると判断した。 さらに、これまでナノスケールのニップルアレイを材料に用いていたが、ナノスケールの周期構造作成にも成功したことで、利用できる材料を広げることが可能となった。 一方、2軸センサーを用いた摩擦力計測の検討については、まだ計測装置が完成できていない。これは、世界的な半導体不足の影響で必要な部品が入手困難となっていることも一因である。
|
今後の研究の推進方策 |
ナノ構造表面の水中摩擦力の計測を実現するため、引き続き2軸センサーを用いた計測装置の開発を進める。プローブの材料やサイズについて検討を進めている一方で、ノイズの問題や負荷の調整方法など、懸案となる課題があるが、2022年度に解決し、モスマイトおよびナノ周期構造を用いた計測の実現を目指す。さらに、生物材料を対象とした実測にも対応できるよう、検討を進めたい。 ナノ周期構造は質を確保つつ、計測用に利用できる数量を作成するためには、手間と時間を要することが予想されているが、実行可能である。接着力・摩擦力以外の特性についても検証を進める。具体的にはホヤ幼生を用いた基質選択アッセイの適用を検討している。 新たな機能構造の探索として、ウミウシを材料とした微細構造観察を計画している。ナノ構造が観察された場合、模倣構造の作成についても検討したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった一部の機器・部品が世界的な半導体不足のため調達できなかった。次年度は状況が改善していると期待されるので、予定していた物品の購入を進める予定である。 予定していた学会発表が、延期やオンライン開催となったため、旅費の支出が少なくなった。次年度の状況も予断を許さないが、複数の学会発表を予定している。また、フィールド調査による生物試料の収集も状況が許せば実施したい。 投稿を予定していたオープンアクセスの学術雑誌の出版手数料を値上げされたため、予算超過が見込まれた。別予算から出版手数料を支払うこととなったため、相当額が次年度に繰り越されることとなった。
|