研究課題/領域番号 |
21K06253
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
上条 桂樹 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (10252074)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞質分裂 / アクチン / ミオシン / 収縮環 / 超解像顕微鏡 / Rho |
研究実績の概要 |
動物細胞の細胞質分裂は収縮環が収縮し細胞がくびれることによって進行する.収縮環は,分裂後期に染色体が分離した後,分離した染色体間の細胞表層に一過性に形成される収縮装置である.収縮環は,アクチンとII型ミオシン(以下ミオシン)のフィラメントによって構成されているが,その構造および形成機構は未解明のままである.そこで,超解像スピニングディスク顕微鏡SpinSR10(オリンパス)で,LLC-PK1細胞(ブタ尿細管上皮)の細胞質分裂期のさまざまなステージでの固定標本観察を行った.収縮環形成初期の細胞ではアクチンフィラメントは分離した染色体間の細胞表層の複数のスポットから放射状に長く伸びていた.このスポットの中心にはRhoシグナルに依存して直鎖状のアクチンの重合を促進するDIAPH3/mDia2が局在していた.収縮環形成が進んだ標本ではアクチンとミオシンの両フィラメントは赤道面に平行になっていた. LLC-PK1細胞にミオシン軽鎖-EGFP,Lifeact-mCherry(アクチン)の融合タンパク質を恒常的に発現する細胞株を樹立し,SpinSR10で超解像ライブイメージング観察したところ,アクチン,ミオシンをそれぞれフィラメントとして検出することができた.固定標本で観察されたように,ライブイメージングでもアクチンフィラメントは染色体間の細胞表層の複数のスポットから放射状に伸長していくことが確認された.ミオシンフィラメントはアクチンフィラメントに沿って分布し,スポットの中心方向に向かって移動した.時間経過とともにアクチン,ミオシンのフィラメントはいずれも赤道面に平行になった.これらの観察結果から,スポットから伸長したアクチンフィラメントを,別のスポット上のミオシンフィラメントが捉えて架橋することにより収縮装置が形成され,収縮環の形成が進行することが推定された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の開始に先立って,超解像顕微鏡SpinSR10でLLC-PK1細胞のアクチンとミオシンの蛍光マルチカラー撮影を行い,フィラメントの向きの検討を試みた.しかし,超解像モードで画像取得するとミオシンとアクチンの局在が予想と大きく異なっていた.Z方向にスタックをとって調べてみると488nmと640nm励起で取得した画像で,約500nm高さが異なっていて,局在が想定と一致しないことが分かった.これは,通常の共焦点顕微鏡では誤差範囲だった軸上色収差が,超解像顕微鏡では無視できない誤差となるためと考えられる.もともと超解像顕微鏡SpinSR10に装備されていた対物レンズでは,超解像マルチカラーイメージング解析に適さないことが判明した.このため,科研費申請時当初の予算を変更して,オリンパスで新たに開発された極低色収差アポクロマート対物レンズPLAPON-SC(60X)を購入した.この結果,軸上色収差の問題が解決され,現在は,順調に細胞質分裂の固定標本およびライブイメージング観察が可能となった.現在,取得した画像について解析を継続中である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,固定標本およびライブイメージングで超解像顕微鏡観察を行い,収縮環の構造および形成過程を明らかにする.SpinSR10による超解像ライブイメージング観察では,現在の蛍光強度の2倍程度強い画像が取得できると,より明確な収縮環像を得ることができることがわかった.このため,画像取得方法や細胞株での蛍光タンパク質の発現強度などを改善して収縮環の形成過程を明確にする.
これまでの観察から,染色体間の細胞表層のスポットから伸長したアクチンを別のスポットのミオシンが補足して架橋し,収縮装置が形成されることが示唆された.このため,Rhoキナーゼ阻害剤Y27632で,ミオシンのリン酸化を抑えることでミオシンフィラメントの形成を阻害して,アクチンフィラメントの伸長・収縮環形成への影響を検討する.加えて,ミオシンATPase阻害剤ブレビスタチン(ミオシンのフィラメント形成は阻害しない)で細胞を処理し,アクチンフィラメントの動態・収縮環形成に及ぼす影響を調べる.また,アクチンの伸長するスポット中心には,直鎖状アクチンの重合を促進するDIAPH3/mDia2が局在したことから,DIAPH3/mDia2 RNAiを行い収縮環形成への影響を解析する.
細胞質分裂は細胞増殖に必須な過程であるため,ゲノム編集でノックアウト細胞株を確立するのが困難である.そこで,Cas9遺伝子をLLC-PK1細胞等で恒常的に発現する細胞株を樹立し,gRNAのトランスフェクションだけで一過性にノックアウトが行える系を作製する.これにより,DIPAH3/mDia2をはじめとしたRhoシグナル関連分子,アクチンやミオシンの制御因子などをノックアウトし,収縮環形成を制御する因子を探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に,残額が少額になったため,翌年度に繰り越し,消耗品の購入に充てる.
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