研究課題
本年度は間脳視索前野の増殖細胞の性質の検証を行った。哺乳類において、視床下部の第3脳室周囲を覆う神経前駆細胞はタニサイトと呼ばれる特殊な上衣細胞である。哺乳類と魚類の神経前駆細胞の分布の比較が行われた研究により、哺乳類では神経原性能を有するタニサイトはVimentinおよびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)を発現するが、魚類では増殖能が高い腹側領域の細胞はVimentinおよびGFAPを発現しないことが報告されている。一方で、両生類の間脳視索前野における第3脳室周囲の増殖細胞がどのような性質を示すかはまだ明らかにされていなかった。そこで、アカハライモリ間脳視索前野の増殖細胞がVimentinやGFAPを発現するかどうかを検証したところ、増殖細胞の約50%は魚類で報告されているようにVimentinもGFAPも発現せず、約40%は哺乳類のタニサイトで報告されているようにVimentinもGFAPを発現していた。また、GFAPのみ発現、またはVimentinのみ発現する細胞も少数ながら存在した。よって、両生類では間脳視索前野の増殖細胞は哺乳類のタニサイト様の性質を持つもの、魚類の増殖細胞様の性質を持つもの、両生類でのみ見られるものが混在していることが明らかとなった。これらの結果は両生類の間脳視索前野では多様な神経前駆細胞が存在し、神経新生の際に、多様な分化運命を生じる可能性を示す。また、PRLの神経新生への寄与については、in vitroでのアッセイ系の確立を目指し、イモリ脳から採取した細胞を用いてニューロスフェアを形成させるところまで準備が整った。
3: やや遅れている
下垂体前葉ホルモンであるプロラクチン(PRL)がイモリ間脳視索前野の細胞増殖を直接的または間接的に促すかについてまだ確定的な結果を得られていない。アカハライモリ間脳視索前野から採取した細胞を用いたニューロスフェアアッセイ系の確立を目指し、in vitroでもPRLの増殖細胞への作用を解析できるように準備を進めている。現状では、ニューロスフェア形成のための培養条件はほぼ確定した状況にある。
PRLが視索前野の細胞増殖を直接的または間接的に促すかを明らかにすることを主たる目標とする。PRLの直接作用としては視索前野の神経幹細胞にPRL受容体が発現しているかを明らかにするとともにニューロスフェアアッセイを利用し、in vitroでPRLが神経幹細胞の増殖を促すかを検証する。また、PRLの間接作用としては、IGF-I, IIをはじめとした脈絡叢に発現する細胞増殖因子を介した作用を想定するが、候補となる細胞増殖因子の選抜には下垂体除去イモリと偽手術イモリの脈絡叢をサンプルに、RNA-seq解析により網羅的に発現を解析することも検討する。
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Development, Growth & Differentiation
巻: 64 ページ: 474-485
10.1111/dgd.12826
https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/bio/regl/