研究課題/領域番号 |
21K06259
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小川 宏人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70301463)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経科学 / 昆虫 / 行動学 / 脳・神経 / ニューロン |
研究実績の概要 |
本年度は、次の2つの課題について研究を行った。 1)コオロギ脳内ニューロンの気流応答性の解析:脳内のニューロンから細胞内電位記録を行い、気流刺激に対する反応特性を調べた。さらに記録した細胞の形態に基づいて、上行性ニューロン(AsNs)、局所介在ニューロン(LINs)、下行性ニューロン(DsNs)に分類し、さらにその神経突起の両側性/半側性を加味して細胞を分類した。まず気流刺激に対する反応潜時に注目したところ、半側性のLINの反応潜時は両側性のLINより短い傾向がみられた。したがって、最終腹部神経節から巨大介在ニューロン(Giant Interneurons, GIs)によって搬送される気流情報はまず半側性LINに入力されると考えられる。また、気流刺激に対する方向選択性について解析したところ、GIsを含むほとんどのAsNsは軸索側からの刺激に高い選好性を示す傾向が見られた。一方、LINsは方向選択性が弱く、後方からの刺激に選好性示すものが多かった。また、DsNsの選好方向や方向選択性の鋭さは細胞によって様々だった。LINの後方への選好性は,後方からの刺激に対する逃避行動閾値の低さに関連しているのかもしれない。また,DsNsの反応の多様さは,その下行性信号によって様々な運動を制御していることを反映している可能性がある。 2)巨大介在ニューロンの上位中枢投射パターンの解析:6種のGIsの脳,食道下神経節,および前胸・中胸・後胸神経節における軸索投射形態を詳細に解析し,従来グループ分けされていた背側GIs(dGIs)と腹側GIs(vGIs)では中枢投射パターンが異なり,さらにvGIsは9-2,9-3と10-2,10-3のサブグループに分かれることがわかった。 この形態学的な違いはGIsが搬送する気流情報が異なり,刺激依存的な気流逃避行動の制御機構の基盤になっている可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1)について,気流逃避行動を指令するニューロンとして,脳内の下行性ニューロン22例から尾葉への気流刺激に対する細胞内記録を行い,その刺激応答性を解析した。特に、興奮性応答を示す下行性ニューロン細胞の潜時は35~110ミリ秒であり,逃避行動の反応潜時と一致する。また,後方からの刺激に対して選好性をもつものが多く,これらのいくつかが逃避歩行運動およびジャンプ運動を指令するニューロンであると考えられる。したがって初年度の目標である指令ニューロンの探索はほぼ順調に進んでいる。 さらに課題2)については,「刺激内容依存的な逃避行動選択の神経メカニズムとして,新たに上行性信号そのものが分割されて伝送されている可能性を示唆した。課題2)の結果はJournal of Comparative Neurology誌に論文として発表できた。 総合して,研究は概ね順調に進展している」と判断でできる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、次の課題についての研究を実施する。特に当初令和5年度に計画していた「運動状況依存性メカニズム」について,自発運動中に気流刺激を受けると高頻度で凍結反応(freezing response)が起こることが分かったことから,令和4年度に予定していた「外部環境依存性メカニズム」の解明に関する研究と研究計画年度を入替て,課題2),3)を実施することとした。 1)気流誘導性逃避運動を指令する下行性ニューロンの同定と運動制御機構の解明:前年度までに明らかにした,気流応答性を示す脳内下行性ニューロンについて、球形トレッドミル上で運動するコオロギ脳内から細胞内記録を行い,自発歩行および気流逃避行動における移動速度・加速度・ターン角速度などの運動内容との関連を調べる。また後肢の動きを高速度ビデオカメラで撮影し,歩行逃避運動とジャンプ運動時における違いを調べる。 2)自発歩行運動中における巨大介在ニューロン活動の解析:気流逃避運動の運動状況依存性を解析するため,トレッドミル上を自発歩行するコオロギ最終腹部神経節からGIsの細胞内記録を行い,随伴発射によるシナプス入力や気流応答性の変化を調べる。 3)巨大介在ニューロンの胸部神経節内出力回路の探索:逃避移動行動や自発運動中の凍結反応(freezing response)媒介する神経機構を明らかにするため,付属肢を動かす運動ニューロンとGIsを直接つなぐ胸部神経回路を形態学的,生理学的に探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により,発表を予定していた学会等がすべてオンライン開催となったため,旅費を使用せず,また実験機材や消耗品の購入を次年度に回したため。次年度はコロナウィルス感染状況も好転し,多くの学会が現地開催となる予定であるため,計画通り使用する予定である。
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