ショウジョウバエのオス腹部第5体節には、性特異的に存在する筋肉MOL(Muscle of Lawrence)がある。MOL形成は、それを支配する性決定因子Fru発現運動ニューロンにより誘導されることが知られている。昨年MOL誘導にアクチビンシグナル系が関わることを見いだした。そこで本年度は、アクチビンシグナル系が作用する発生時期について温度感受性Gal80を用いて特定した。その結果、アクチビンシグナル系は蛹期の前半、MOL形成期に相当する時期に作用していることが明らかになった。 次にアクチビンβの発現パターンの解析を行った。抗アクチビンβ抗体を新たに作成し、その発現を免疫組織化学染色により調査したが、十分な染色像を得られず、作成した抗体が適していなかったと考えられた。また、アクチビンβ-Gal4でその発現をモニターしたところ、確かにMOLを支配する運動ニューロンで発現が見られたが、運動ニューロン全般で発現があり、オス特異的な発現パターンは見られなかった。このことから、単純にMOLを支配する運動神経でアクチビンβの発現が誘導され、その結果MOLが形成されるということではなく、他の因子も関与している可能性も示唆された。 アクチビンシグナル伝達系の下流で作用するMOL分化制御因子の同定のため、腱の形成に関わる遺伝子ついてmyoblastにおいて発現をノックダウンさせたところ、perdおよびmys遺伝子では確かに筋肉の付着が異常となった。しかし、その異常はMOLだけではなく、他の体壁筋にも同様に現れ、アクチビンシグナルの下流で作用しているかどうかは不明である。 アクチビンシグナル系のノックダウンによりMOL形成に異常を引き起こした際、形成過程でどのような変化が運動ニューロンやMOL形成に起こっているか、その変化をライブイメージング法にて明らかにすることは今後の課題として残された。
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