研究課題/領域番号 |
21K06261
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
曽我部 篤 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (80512714)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 配偶システム / 魚類 / 遺伝子発現解析 / ペアボンド / 一夫一妻 / バソトシン |
研究実績の概要 |
配偶システムの異なるヨウジウオ科魚類4種(一夫一妻のイシヨウジとHippocampus abdominalis、複婚のヨウジウオとオクヨウジ)について、配偶の前後で複婚の種では発現量が変化するが一夫一妻の種では変化しない遺伝子を調べることで、ペアボンド維持遺伝子を探索する。本年は複婚のヨウジウオとオクヨウジについて水槽飼育実験を行い、配偶前後の個体の脳を摘出して全脳のRNA-Seqを行う予定であったが、オクヨウジについては必要なサンプルをすべて得ることができたが、ヨウジウオについては十分な実験個体の確保ができなかったために目的を達成することができなかった。概にデータを取得済みのイシヨウジに加えて、来年度ヨウジウオとH. abominalisのデータを得られ次第、遺伝子発現パターンのクラスタリングからペアボンド維持遺伝子の絞り込みを行う予定である。 複婚のヨウジウオについて、1雄2雌または2雄1雌のトリオで水槽飼育し、雌雄それぞれの配偶者選択性と繁殖成功度について調査した。その結果、雄では体長の大きな雌と先に配偶するという雌の体サイズに対する選好性が認められたが、雌では雄の体サイズに基づく配偶者選好性は確認できなかった。1匹の雌の産卵量は1匹の雄の育児嚢を満たすには不十分であり、平均2.4匹の雌との配偶が必要となる。雄は少ない配偶回数で効率的に育児嚢を卵で満たすために、大きな雌と配偶することを好むと考えられる。雌は複数の雄が存在する場合にも、1匹の雄とだけ配偶したことから、他のヨウジウオ属で報告されているような、卵保護失敗のリスクを分散させるため複数の雄に少量ずつ卵を渡すという戦略は採らないと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度中に取り組む予定であった研究課題のうち、下記の3課題については当初の予定通りに研究遂行することができなかった。本年度も新型コロナウイルス感染拡大への対応として、一部の調査ができなかったことが理由である。 ①令和3年度中に一部の実験が完了しなかった一夫一妻のイシヨウジのペアボンド維持行動によって特異的に変化する脳内発現遺伝子を明らかにするための野外操作実験を本年度完了させる予定であったが、今年度も実施できなかった。新型コロナウイルス感染対応のため、現地調査ができなかったためである。 ②ハタネズミ類においてペアボンド維持に重要と考えられているバソトシン受容体遺伝子の脳内局在とバソトシン受容体遺伝子の転写調節領域塩基配列を配偶システムの異なるヨウジウオ科魚類4種で比較するため、イシヨウジのサンプリングを行う予定であったが、①同様の理由により実施できなかった。 ③配偶システムの異なるヨウジウオ科魚類4種の脳内遺伝子発現パターンの比較により、ペアボンド維持遺伝子を探索する本年は複婚のヨウジウオとオクヨウジについて水槽飼育実験を行う予定であったが、ヨウジウオについては十分な数の実験個体を確保できなかったために、サンプルを入手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、新型コロナウイルス感染に対する行動制限がかなり緩和されることから、過去2年間に予定通り実施できなかった研究課題の多くの実験について令和5年度中に完了させるべく研究計画の見直しを行う。配偶システムの異なる4種のヨウジウオ科魚類の能な発現遺伝子の比較をおこなうため、未取得であるヨウジウオとH. abdominalisの試料を得るための水槽飼育実験を6-7月に実施する。バソトシン受容体遺伝子の脳内局在とバソトシン受容体遺伝子の転写調節領域塩基配列を配偶システムの異なるヨウジウオ科魚類4種で比較するための試料を入手できていないイシヨウジ、オクヨウジ、H. abdominalisの3種について6-9月中にサンプリングを行い脳試料を入手し、本年度中にバソトシン受容体遺伝子の塩基配列決定し、in situハイブリダイゼーションのためのプライマーとプローブを開発してバソトシン受容体の脳内局在の種間比較を完了させる。
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