研究課題
本研究は動物の生殖と性行動を同調させることにより生殖を成功に導く神経系・内分泌系制御機構の解明を目的としたものであり、本年度は以下の研究実績を上げた。①脊椎動物のメスに共通する排卵周期の神経・内分泌的制御機構をGnRHニューロンに注目して生理学・分子形態学的手法で解析し、排卵の引き金となるGnRHサージおよび脳下垂体LHサージを生じさせる神経細胞・神経回路レベルでの知見を得た。GnRHニューロンの活動電位(発火)平均頻度が排卵に先立ち上昇すること、1日の性周期中に血中E濃度が変動を示すことは我々がメダカで既に証明しており、これがGnRHサージの基礎になると考えられる。我々は、GnRHニューロンに生じる6Hz以上の高頻度発火(HFF)が脳下垂体のGnRH軸索終末からGnRHを放出させて脳下垂体LH細胞にCa2+上昇、引いてはLH放出を引き起こし得ることを既に証明していた。今回GnRHニューロン平均発火頻度の上昇する夕方にはHFFも多数生じることを見出した。さらに、このHFFが性周期に依存して変動する卵巣由来エストロジェン(E)と環境からのタイミングシグナルの入力に依存して発生する機構の一部を明らかにした。②メスが生殖周期(特に排卵)に同期して性行動を引き起こす神経細胞・神経回路レベルの機構をE受容体(ER:遺伝子はesr)発現ニューロンと排卵シグナルに注目して多角的手法で解析している。本年度は、独自に開発した定量的行動自動解析システムの概要について論文発表した。さらに、抱接行動を制御するしくみに関してesr発現ニューロンを中心とした神経機構に関する作業仮説を立てて研究を進めており、可及的速やかに成果を取りまとめて今後論文投稿する予定である。
2: おおむね順調に進展している
実績概要①の研究計画論文1:遺伝子改変したメスメダカの脳を丸ごと用いて神経活動を解析することで、脳内GnRH1ニューロンの高頻度の活動が規則的排卵を起こすことを発見した。成熟卵巣から出されるホルモン信号と朝夕を知らせる何らかの時間信号がGnRH1ニューロンに伝わることで、このニューロンが活性化されることを明らかにした。規則的排卵を起こす脳内のしくみは哺乳類以外の多くの脊椎動物に共通すると考えられ、今回の発見により、脊椎動物の排卵を調節する脳内のしくみの理解が進むと期待される(プレスリリース https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/7753/)。実績概要②の研究計画論文2:シングルボードコンピューターの一種であるRaspberry Piを用いて動物行動の自動撮影システムを作製した。また、Microsoft Excelのマクロ機能を応用し、PCのキーを押さえるだけの単純な操作で行動を記録し、このデータを基に行動の変遷を表すラスタープロットをEPS形式で自動で作製できるプログラムを開発した。これらのシステムを用いることで、実験誤差が少ない高精度な行動解析を短時間かつ単純な操作で実現できるようになった。論文3:脳内の同じニューロンが作る2つの神経ペプチドGnRH3とNPFFが両方ともオスの性行動のモチベーションを調節することを明らかにした。不明であったNPFFの行動における機能を発見すると共に、両神経ペプチドがバランスよく脳内で作用することで性行動がうまく制御される脳内のしくみを明らかにした。複数の神経ペプチドを作るニューロンによって行動のモチベーションが調節されるしくみを明らかにしたことで、動物行動を司る脳内のしくみの理解が進むことが期待される(プレスリリース https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/7710/)。
実績概要①にあげた研究計画:現在メスメダカ脳内におけるGnRH1ニューロン活動をin vivo状態におけるメダカ脳からのCa2+ファイバー・フォトメトリーにより経時的記録する実験と、GnRH1により刺激を受けて脳下垂体から放出されて排卵をトリガーする生殖腺刺激ホルモンLHの血中濃度の経時的記録を行う実験を、共同研究者の池上、馬谷らと共に準備中である。この実験結果が得られれば、両者の関係を解析し、今年度中に学会発表ないし論文発表を実施予定である。実績概要②にあげた研究計画:現在、進捗状況に記載した論文で開発した行動解析装置を用いて、メスメダカの性行動制御においてエストロジェン受容体発現ニューロンの果たす役割を中心に、共同研究者の富原らと共に論文投稿の準備中である。
当該年度は出席を予定していた学会が全てオンライン開催となり、出張旅費が全く生じなかった。また、論文投稿に際しても、申請者がCorresponding authorとして出版費用を支払うべきJournal of Neuroendocrinologyについてはオープンアクセスにしない場合は投稿料や掲載料を無料としているため、出版費用もかからなかった。次年度以降は、現地開催される学会出席や、新たに計画している実験計画およびいくつかの論文投稿のために支出が増える見込みなので、生じた次年度使用額と請求した助成金を合わせて、有効に利用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/7710/
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/7753/