研究課題/領域番号 |
21K06262
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡 良隆 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 名誉教授 (70143360)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 生体情報学 / 生殖 / 性行動 / 神経機構 / 神経内分泌 |
研究実績の概要 |
本研究は動物の生殖と性行動を同調させることにより生殖を成功に導く神経系・内分泌系制御機構の解明を目的としている。 ①脊椎動物のメスに共通する排卵周期の神経・内分泌的制御機構をGnRHニューロンに注目して多角的に解析し、排卵の引き金となるGnRHサージ・脳下垂体LHサージを生じさせるしくみを解明する。GnRHニューロンの活動電位(発火)平均頻度が排卵に先立ち上昇すること、1日の生殖周期中に血中エストロジェン(E)濃度が変動を示すことは我々がメダカで既に証明しており、これがGnRHサージの基礎になると考えられる。また、GnRHニューロンの6Hz以上の高頻度発火(HFF)が脳下垂体のGnRHニューロン軸索終末からGnRHを放出させて脳下垂体LH細胞からのLH放出を引き起こすことも証明している。さらに、GnRHニューロン平均発火頻度の上昇する夕方にはHFFも多数生じること、HFFが体内で変動する卵巣由来Eと環境からのタイミングシグナルの入力に依存して発生する機構の一部を明らかにし、2022年J. Neuroendocrinology誌に発表した。今年度は、我々の研究成果を中心として、魚類においてGnRHニューロンを中心とする神経系によって生殖が制御される機構に関する従来の研究成果を論じる総説論文をEndocrine Journal誌に発表した。 ②メスが生殖周期(特に排卵)に同期して性行動を引き起こす神経機構をE受容体(ER:遺伝子はesr)発現ニューロンと排卵シグナルに注目して多角的手法により解明する。現在までに抱接行動を制御するしくみに関してesr発現ニューロンを中心とする作業仮説の下に研究を進め、研究成果の論文投稿を準備中である。また、この分野の従来の研究成果をとりまとめ、魚類の性行動制御の神経機構を論じる総説論文をZoological Science誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要①にあげた研究計画 遺伝子改変したメスメダカの脳を丸ごと用いて神経活動を解析することで、脳内GnRH1ニューロンの高頻度の活動が規則的排卵を起こすことを発見した。成熟卵巣から出されるホルモン信号と朝夕を知らせる何らかの時間信号がGnRH1ニューロンに伝わることで、このニューロンが活性化されることを明らかにした。規則的排卵を起こす脳内のしくみは哺乳類以外の多くの脊椎動物に共通すると考えられ、我々の発見により、脊椎動物の排卵を調節する脳内のしくみの理解が進むと期待される。我々の研究成果を中心として、魚類においてGnRHニューロンを中心とする神経系によって生殖が制御される機構に関する従来の研究成果を論じる総説論文をEndocrine Journal誌に発表したところ、この論文はFeatured Articleとして採用されると共にEditor's pickとしても紹介された。https://www.jstage.jst.go.jp/browse/endocrj 実績概要②にあげた研究計画 性行動の神経機構を研究する分野の従来の研究成果をとりまとめ、特に魚類における性行動制御の神経機構を論じる総説論文をZoological Science誌(ZS)に発表した。なお、このZS誌は2023年の特集号として研究代表者岡が共同研究者の馬谷と共にゲストエディターとして取りまとめた物であり、今後動物科学分野におけるこの分野の研究にも大きなインパクトを与えることが期待される。 https://bioone.org/journals/zoological-science/volume-40/issue-2/zsj.40.79/Zoology-of-Fishes/10.2108/zsj.40.79.short
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今後の研究の推進方策 |
実績概要①にあげた研究計画:現在メスメダカ脳内におけるGnRH1ニューロン活動をin vivo状態におけるメダカ脳からのCa2+ファイバー・フォトメトリーにより経時的記録する実験と、GnRH1により刺激を受けて脳下垂体から放出されて排卵をトリガーする生殖腺刺激ホルモンLHの血中濃度の経時的記録を行う実験を、共同研究者の池上、馬谷らと共に準備中である。この実験結果が得られれば、両者の関係を解析し、今年度中に学会発表ないし論文発表を実施予定である。 実績概要②にあげた研究計画:現在、2021年に論文発表した研究で開発した行動解析装置を用いて、メスメダカの性行動制御においてE受容体発現ニューロンの果たす役割を中心に、共同研究者の富原らと共に論文投稿の準備中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大のために本研究計画の開始当初より国内外の学会大会に参加する機会がなく、オンライン参加などであったために旅費をほとんど使わなかった。また、今年度の論文出版についても、総説論文が共に招待であったために出版費も無料で支出がなかった。 今年度以降は対面による学会出張も可能になり、また、研究成果の論文発表や研究活動に必要な物品購入なども増えるので、今後有効に研究費を利用していける見通しである。
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