研究課題/領域番号 |
21K06267
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
富岡 憲治 岡山大学, 自然科学研究科, 特命教授 (30136163)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 概日時計 / 複眼 / 視葉 / 時計間相互作用 / 自由継続周期 / 周期の安定性 |
研究実績の概要 |
本研究では、フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)を用いて、複眼時計(末梢時計)と視葉時計(中枢時計)との相互作用の解析を進めることにより、中枢時計と末梢時計との相互作用を明らかにし、昆虫の概日時計機構に新たな視点を拓くことを目的としている。昨年度は、視神経を切断することで、恒暗条件下での視葉時計の周期が延長し、周期が不安定化すること、この効果は30℃で顕著になることを明らかにした。本年度は、さらに詳細に解析を行い、正常個体の視葉時計では周期が長いほど周期が安定化するが、視神経を切断するとこの関係が消失すること、視葉時計の周期の制御には複眼全域が関与するが、安定化に係る情報は複眼前方部から入力されることを、複眼の部分切除実験により明らかにした。さらに、本年度は、視神経切断により視葉内の時計遺伝子、period, timeless, cryptochrome 2, cycleの恒暗条件下での発現がいずれも正常個体と同位相で振動を維持するが、その振幅が有意に低下することを見出し、複眼が視葉時計の振動に影響することを明らかにした。一方、視葉時計による複眼時計の制御については、ERGリズムを指標として視神経切断後の光同調性の検討を開始した。視神経切断後、6時間位相後退させた明暗下に置き、その4日後、7日後の18時から恒暗条件に移してERGリズムを解析している。まだ、解析途上ではあるが、ERGリズムの位相は正常個体とほぼ同様に位相後退するらしい結果が得られており、複眼時計は視葉時計とは独立にリセットされる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に、複眼が視葉時計の周期、安定性を制御することを明らかにしたが、今年度はその系路をほぼ明らかにし、その成果をまとめた論文を発表した。さらに本年度は、複眼時計の振幅が視葉時計の制御を受けるのに対して、光によるリセットは独立に起こることを明らかにした。この結果は、複眼時計のリセット機構が視葉時計とは異なることを示唆するものであり、リセット機構の解析に分子レベルでの新たな展開へとつながるものである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、基本的には計画に沿って進める予定である。特に複眼時計の関与を明確にするため、時計遺伝子のRNAiにより複眼時計のみを停止させ、その視葉時計への影響を検討すること、複眼時計の分子振動の光リセット機構を解析すること、を中心に進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際昆虫学会議(於 ヘルシンキ)に出席予定であったが、新型コロナ感染症による渡航制限で参加できなかったため残額が生じたが、これは次年度8月に米国で開催予定の国際会議での成果発表のため使用する予定である。
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