研究課題/領域番号 |
21K06268
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
有川 幹彦 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (20432817)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 原生生物 / アンヒドロビオシス / トレハロース / コルポーダ / 乾燥耐性 |
研究実績の概要 |
ある種の生物は、代謝を完全に停止させた状態で乾燥環境を生き抜く。これをアンヒドロビオシス(乾燥無代謝休眠)という。体内においてトレハロースが水と置き換わることで乾燥耐性が獲得されると考えられている。しかし、乾燥耐性の獲得機構や再水和による覚醒機構については、全容の解明には至っていない。本研究では、原生生物コルポーダの休眠シスト形成過程および脱シスト過程において、トレハロース代謝系に介入し、乾燥耐性に対する影響について確認することで、トレハロースの分子動態と乾燥耐性との関連性を明らかにすることを目的とした。 予備実験により、コルポーダの栄養細胞において、TPase、T6PS、TrePの発現が確認されたことから、休眠シスト形成に伴い、TPS-TPP経路またはTreP経路によりトレハロースが合成されると考えられた。そこで、まず、発現が確認された各酵素に対して特異的なプライマーを設計し、qRT-PCR法によりトレハロース代謝関連遺伝子発現の経時変化を追う実験を行った。しかしながら、休眠シスト形成誘導後0、2、4、8時間後の栄養細胞において、上記遺伝子の発現量の増加は認められなかった。このことは、トランスクリプトーム解析結果をもとに作成したVolcano plotおよびMA plotからも確認することができた。トレハロース含有量測定キット(日本バイオコン)とQubit Fluorometer(Invitrogen)を組み合わせて、休眠シスト内のトレハロース含有量を測定してみたが、期待した結果は得られなかった。これらのことから、休眠シスト内に多くのトレハロースは含まれず、したがって、コルポーダの乾燥耐性はトレハロースの蓄積によりもたらされるものではない可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、所属機関への入構制限や滞在時間の短縮など、十分に実験を行う時間を確保することが困難であった。また、研究室の学生も同様に入構制限を受けたため、実験生物の培養と維持に多くの時間を要したことから、実験を計画通りに進めることができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、コルポーダ休眠シストの乾燥耐性はトレハロースの蓄積によりもたらされる可能性の検証を続けると同時に、他の物質によりもたらされる可能性について検証する必要がある。例えば、コルポーダの休眠シストと同じように乾燥耐性を有するネムリユスリカの幼虫は、トレハロース以外にも植物の種子に大量に含まれるLEAタンパク質(late embryogenesis abundant protein)を持つことが示されている。また、同じく乾燥耐性を有するクマムシは、乾燥耐性を示す際に2種の熱可溶性タンパク質(Cytoplasmic abundant heat soluble protein, CAHSとSecretory abundant heat soluble protein, SAHS)が蓄積することが報告されている。まずは、コルポーダにおけるLEAタンパク質やCAHSタンパク質、SAHSタンパク質の遺伝子の存在を確認し、さらには、休眠シスト形成時におけるそれら遺伝子の発現や、タンパク質の蓄積を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、所属機関への入構制限や滞在時間の短縮など、十分に実験を行う時間を確保することが困難であった。加えて、参加予定であった国内学会がオンラインで実施されたため、出張経費の支出がなかった。次年度は、今年度と次年度の使用計画に従って使用する。
|