昆虫では外骨格や筋肉の弾性が運動に大きな影響をあたえるため、脊椎動物とは異なる独自の運動制御の仕組みを持つ可能性がある。昆虫の運動制御の研究は飛翔や歩行などの反復運動において盛んに行われており、その神経回路が明らかになりつつある。一方、カマキリの捕獲行動のような、目標にあわせて動きを調節する運動は、繰り返し運動を再現することが容易でないため神経回路の解明はほとんど進んでいない。そこで本研究では、カマキリ神経系への電気刺激により異なる大きさの前肢運動を誘発し、運動中に興奮したニューロン群を神経活動マーカー分子への抗体を使って免疫染色することで、前肢運動の調節に関与する神経回路の同定を目指した。 前年度までの研究によって、電気刺激により単関節の前肢運動を引き起こす手法を確立し、pERKに対する抗体を用いた免疫染色によって電気刺激で興奮した運動ニューロンの細胞体が観察できることを確認した。しかし、観察された運動ニューロンが前肢のどの筋肉を神経支配するかは不明であったため、結果の解釈が困難であった。そこで今年度は、本手法で興奮が観察された運動ニューロンを識別するために、運動ニューロンの同定作業を重点的に行った。前肢筋肉を神経支配する運動ニューロンの逆行性染色とニューロパイルの免疫染色を同時に行い、ニューロパイル構造との相対配置を手がかりに運動ニューロンを同定する作業を進めた。その結果、カマキリ前胸神経節のほぼ全ての運動ニューロンの同定に成功した。現在は同定した運動ニューロンが神経支配している筋肉の確認作業を進めており、その完了により前肢運動の調節に関与する運動ニューロンが明らかになることが期待される。
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