研究課題/領域番号 |
21K06272
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
梅村 真理子 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (30521489)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 神経細胞移動 / 転写因子 / 行動異常 / マウス |
研究実績の概要 |
自閉症スペクトラム障害は、社会性行動の障害やこだわり行動を特性とした神経発達障害の一つである。自閉症発症の原因の一つとして、大脳皮質の構築が異常になることが報告されている。本研究では、大脳皮質の構築が異常の原因となる自閉症の発症の分子機構を明らかにすることを目的として研究を行う。具体的には、自閉症様行動異常を示すマウス(転写因子ATF5の欠損マウス)を用いて、大脳皮質の発達過程の異常を明らかにする。またATF5欠損によって引き起こされる大脳皮質の発達異常の分子機構を明らかにする。 昨年度までに、胎仔期のATF5欠損マウスの大脳皮質は、発達不良であることが見出された。特に、脳室帯/脳室下帯に局在する神経前駆細胞の密度が減少していた。そこで、本年度は、胎仔期の大脳皮質におけるATF5の標的因子を同定し、ATF5が関与する大脳皮質発達の分子機構を明らかにすることを試みた。胎仔期のATF5欠損マウスの大脳皮質よりTotal RNAを抽出し、RNAシークエンス解析を行った。野生型マウスに比べて、ATF5欠損マウスにおいて、発現が増減している因子が多数同定された。特に、ストレス応答、エピジェネティックな遺伝子発現制御、胎仔期の組織形成に関与する因子が同定された。 一方で、自閉症様行動を示すモデルマウスにおいて、シナプス機能の異常が見出されている。シナプスは、神経細胞同士のつなぎ目の部分で、神経細胞の連絡に重要である。シナプスは、樹状突起のスパイン(棘)上に形成されることから、樹状突起やスパインの形態を解析した。ATF5の発現が抑制された初代培養細胞では、樹状突起の形態が変化していることがわかった。一方で、スパイン形態は、その成熟過程において形態を変化させるが、ATF5の発現を抑制した初代培養細胞では、スパイン形態の分布が野生型に比べて、変化していることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初の計画通り、大脳皮質の発達機構の分子機構を明らかにするために、ATF5欠損マウスの大脳皮質においてRNAシークエンス解析を実施した。この結果が、ATF5が関与する大脳皮質発達の分子機構の解明に繋がることが期待される。さらに、今年度はATF5の発現を抑制した神経細胞において、シナプス形成の場となる樹状突起やスパインの解析を行なうことができた。これらの解析結果が、自閉症様行動を引き起こす原因の解明に寄与することが予想される。以上のことから、研究計画を概ね順調に遂行できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
成体の大脳皮質は、性質の異なる神経細胞が積み重なり6層構造を形成している。脳発達期に脳室帯において産生された神経細胞が、表層方向に移動して、適切な位置に配置され、神経細胞が成熟することにより大脳皮質の層構造が構築される。これまでに、ATF5の欠損により発現が影響される因子群の同定を行なった。今後は、これらの因子群が関与する大脳皮質の発達の分子機構を明らかにする予定である。 一方で、移動性神経細胞が、サブプレートニューロンとシナプスを形成することが大脳皮質発達過程での神経細胞移動に重要であることが報告されている。また、自閉症モデルマウスにおいて、シナプス機能や形態の異常が異常行動の原因となることが報告されている。これまでに、ATF5の発現を抑制した神経細胞では、シナプス形成の場となる樹状突起やスパイン構造の変化が認められた。そこで、今後は、ATF5が関与するシナプス機能や形成への影響を、初代培養細胞や組織を用いて解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNAシークエンス解析のためのサンプル調整や関連実験が概ね順調に実施できたため、当初の計画より消耗品や試薬の購入が抑えられた。次年度は、当該予算を使用して、引き続きRNAシークエンス解析で同定された因子による大脳皮質の構築の分子機構を明らかにするために適切に使用する。
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