研究課題/領域番号 |
21K06277
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
井上 喜博 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (90201938)
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研究分担者 |
松田 修 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00271164)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 自然免疫 / 抗菌ペプチド / 造血組織腫瘍 / MAPキナーゼ / metalloproteinase |
研究実績の概要 |
一部の高等動物を除いて大半の生物は自然免疫しか持たない。それらの生物でも癌は生じるので対処の必要があるが、自然免疫系が癌細胞をどのように認識し,排除するのかはよくわかっていない。ショウジョウバエmxc変異体では造血組織内の未分化細胞が異常増殖し、他の組織に浸潤する。申請者らは同変異体において自然免疫系が強く活性化しており、その結果誘導されるAMPペプチドには抗癌作用があることを示した。本研究の目的は、ヒト白血病に似たmxc腫瘍が発生、悪性化する機構、癌が血球細胞に認識され、免疫担当組織で自然免疫系が活性化される機構、AMPが癌細胞だけに作用し、抑制する機構を明らかにすることである。2021年度は、LG腫瘍の悪性化に関する機構を調べた。MAPKシグナル伝達因子の活性型変異をmxc変異体LG細胞特異的に強制発現させると腫瘍の増殖が増強された。逆に、それらをノックダウンすると腫瘍は抑制された。同伝達系が腫瘍の発生、悪性化に関与することがわかった。腫瘍ではEカドヘリン量が低下していた。同遺伝子の転写を抑制するMCRIPをノックダウンした結果、体液中の血球細胞が有意に増加した。MCRIPはMAPKのリン酸化により制御される。したがって、MAPKによるLG腫瘍の増強には、MCRIPを介したEカドヘリンの転写抑制が関与すると考えられた。他にカドヘリンを分解するMMP1の発現が変異体の腫瘍では有意に増加していた。MMP1はMAPKにより活性化される転写因子Pntを介して発現誘導される。MMP1あるいはpntをノックダウンすると変異体のLGの過剰増殖が抑制された。以上から、MAPKシグナルの活性化によるmxc変異体のLG腫瘍表現型の増強には、pntを介したMMP1の発現誘導、それによるEカドヘリンの分解促進も関与している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1)ヒト白血病に似たmxc腫瘍が発生、悪性化する機構、2)癌が血球細胞に認識され、免疫担当組織で自然免疫系が活性化される機構、3)AMPが癌細胞だけに作用し、癌を抑制する機構を明らかにすることことを目的にしている。加えて、哺乳類の相同AMPにも抗癌作用があるか検証することを目的にしている。2021年度は、(1)の課題において上記の研究結果が得られた。これは大きな進展と考えている。また、2)癌が血球細胞に認識され、免疫担当組織で自然免疫系が活性化される機構についても、細胞間接着因子を分解する酵素MMPの異所的発現誘導が認められる結果を得て、論文を投稿中(リバイス中)である。4)JAK/STAT経路を介して誘導されるAMPにも抗癌作用があるか明らかにする検討も始めている。哺乳類の相同AMPの抗癌作用についても、これらの異種AMPをショウジョウバエの免疫担当組織である脂肪体で発現させる系統も作製中である。このような理由から、本研究計画は概ね計画通りに進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、ショウジョウバエの癌が認識され、情報が脂肪体に伝わる機構、自然免疫系が活性化する機構の解明を行う。哺乳類では細胞残渣により自然免疫系が活性化する。そこで1)mxc変異体のLG腫瘍組織上に血球細胞の集積、2)細胞外基質分解酵素MMPの発現上昇、3)そのノックダウンにより自然免疫系の活性化 (AMP誘導)が抑制されるか、定量PCRで調べる。血球細胞による癌細胞の認識に活性酸素種Rosが関与するか、検討している。自然免疫系因子(Spz、Toll、Imd)を脂肪体でノックダウンし、AMP誘導に必要か調べる。AMPが癌細胞だけを抑制するメカニズムの解明もおこなう。癌細胞に直接ターゲットするAMP(Diptericin)については、この正電荷アミノ酸を中性アミノ酸に置換した変異体をコードするcDNAを化学合成,ペプチド発現させ,癌細胞の認識が変化するか調べる。mxc変異体の腫瘍も、哺乳類の癌細胞のように細胞膜上に負に帯電したリン脂質を多く含まないか、蛍光プローブPSVueで調べる。(2)血球細胞に取り込まれて運ばれるAMP(Defensin)については、Defensin-HAを脂肪体で発現、分泌されたAMPが血球細胞に取り込まれ、癌組織にリクルートされていないか、抗HA免疫染色する。ショウジョウバエにおけるヒトDefensinの発現誘導とmxc腫瘍に対する癌抑制効果の調査も進める。ヒトDefensinを脂肪体で発現させ、それらが血球細胞への取り込み,同細胞が腫瘍特異的にリクルートされるか免疫染色法で確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
同じ消耗品を購入可能な学内経費および産学連携経費を獲得した。それらは年度内での執行が義務付けられていたので優先して予算執行した。このため次年度使用額が生じた。これらは22年度内に優先して執行予定である。
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