研究課題/領域番号 |
21K06279
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
田上 英明 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70273216)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | Mlo2 / ヒストンH3 / 複合体解析 / ヒストン過剰発現 |
研究実績の概要 |
様々なヒストン化学修飾は機能的なエピゲノム情報基盤として重要であるが、ヒストン分子交換も含めたクロマチン制御は非常にダイナミックである。このクロマチン動的制御の破綻は、ゲノム不安定化を誘引し、がんなどの多くの疾患との関連性も示唆されている。本研究「ヒストンH3-H4の解離制御と生理機能」では、申請者が見いだした新規H3結合因子Mlo2が安定なヒストンH3-H4を解離させる活性を持つことに焦点を当て、クロマチン動的制御と細胞機能との連携システムの解明を目指すものである。 令和3年度より、分裂酵母Mlo2 C末端領域(CTD)の点変異体の過剰発現時の表現型および二量体形成、ヒストンH3との結合活性について解析を進めている。二量体形成部位の変異はMlo2過剰発現時の増殖阻害を抑圧すること、さらにH3結合に重要であることを明らかにした。また、ヒストンH3において、H4との相互作用部位であるY99がMlo2結合にも重要であることを明らかにした。 令和4年度には、Mlo2 CTD二量体形成について、ゲル濾過カラム分画法だけでなく、グリセロール密度勾配遠心法においても確認できた。さらに、全長Mlo2について解析を進めたところ、二量体化するC末端領域だけでなく多量体など様々な形態をとりうることが示唆された。今後、Mlo2の形態とヒストン結合との関連性について解析を進める予定である。 また、ヒストンH3およびH3-H4同時過剰発現系をもちいて、ヒストン量的制御の分子機構解析を進めた。分裂酵母でヒストンH3の過剰発現は増殖阻害を起こし、H3-H4同時過剰発現は非常に強い増殖阻害を起こした。しかし、H3 N末端テイルやH4結合部位の変異体の過剰発現では、増殖阻害を抑圧することを明らかにした。Mlo2との関連性も含め、ヒストンバランス破綻時の危機管理システムについて明らかにしていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Mlo2 C末端領域にアラニン置換変異を導入し、分裂酵母内で過剰発現する系を構築した。それらを用いて、過剰発現時の表現型解析を行い、C末端変異体のいくつかはMlo2過剰発現時の増殖阻害を抑圧することを明らかにし、in vivoにおける生理的機能に関与することが示唆された。また、それら点変異体のC末端領域を精製し、in vitroで二量体形成、ヒストンH3との結合活性について生化学的解析を行った。その結果、二量体形成に関与するいくつかの部位がH3結合に重要であることを示した。また、H3のH4との相互作用部位であるY99がMlo2結合に重要であることを示し、Mlo2によるH3-H4解離の分子機構の一端を明らかにした。さらに、全長Mlo2を用いた解析では、驚いたことに多量体など様々な形態をとりうることが示唆され、液-液相分離(LLPS)様の形態をとる可能性も考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
Mlo2 C末端領域が二量体に関わるだけでなく、全長Mlo2型量体など様々な形態を取りうることを示した。この分子機構や細胞内における制御、ヒストンH3との相互作用についてさらに解析を進める。Mlo2 CTD-H3相互作用については、カロリーメーターによる定量解析、およびNMR解析のためのサンプル調製を進める予定である。 全長Mlo2は、多量体など様々な形態をとりうることが示唆され、分裂酵母細胞内においても液-液相分離(LLPS)様の形態を取るのか、さらに解析を進める。 Mlo2 N末端の多量体形成部位の同定を進め、ユビキチンリガーゼ活性やC末端領域の二量体形成やH3結合との関連性について、生化学的および分子遺伝学的解析を進めることで、Mlo2の分子機能および細胞内における生理機能を明らかにしたいと考える。 ヒストン過剰発現系におけるMlo2変異の関与や、他の関連因子を含めヒストンバランス破綻時の危機管理システムについて解析を進める予定である。
|