様々なヒストン化学修飾は機能的なエピゲノム情報基盤として重要であるが、ヒストン分子交換も含めたクロマチン制御は非常にダイナミックである。このクロマチン動的制御の破綻は、ゲノム不安定化を誘引し、がんなどの多くの疾患との関連性も示唆されている。本研究では、新規H3結合因子Mlo2が安定なヒストンH3-H4を解離させる活性を持つことに焦点を当て、以下の解析を行った。 分裂酵母Mlo2 C末端領域(CTD)がヒストン様の二量体を形成しうる事を見いだし、相互作用に関与する可能性のあるアミノ酸残基をアラニン置換した。それらの点変異体の二量体形成、ヒストンH3との結合活性について解析した。Mlo2 CTD二量体形成については、ゲル濾過カラム分画法およびグリセロール密度勾配遠心法を用いることで、特定のアミノ酸が二量体形成に寄与することが明らかとなった。また、そのうちのいくつかの残基はH3結合に重要であることを明らかにした。Mlo2を分裂酵母で過剰発現させると染色体分配異常により増殖阻害を引き起こすが、これらの点変異体の過剰発現では増殖阻害が抑圧され、細胞内での機能に関与することが示唆された。また、ヒストンH3において、H4との相互作用部位がMlo2結合にも重要であることを明らかにし、Mlo2がH4と同様にH3と相互作用することで、安定なH3-H4を解離させることが示唆された。 さらに、ヒストンH3およびH3-H4同時過剰発現系をもちいて、ヒストン量的制御の分子機構解析を進めた。分裂酵母でヒストンH3の過剰発現は増殖阻害を起こし、H3-H4同時過剰発現は非常に強い増殖阻害を起こした。H3 N末端テイルやH4結合部位の変異体の過剰発現では、増殖阻害を抑圧することを明らかにした。今後、Mlo2結合との関連性からヒストンバランス破綻時の危機管理システムについて明らかしたい。
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