研究課題/領域番号 |
21K06280
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
菱田 卓 学習院大学, 理学部, 教授 (60335388)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNA相同組換え / DNA二本鎖切断 / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
DNA二本鎖切断 (double-strand breaks: DSB) は、染色体構造の不安定化を引き起こす要因となりうるため、染色体の動態制御はDSB修復に関与する相同組換え(homologous recombination: HR)経路のはたらきに必須の役割を果たしていると考えられる。SMC(structural maintenance of chromosomes)ファミリータンパク質は、染色体の凝縮・分配やDNA複製など、広範な染色体機能の制御に関与しており、近年、HR経路においても重要な役割を果たしていることが報告されている。本研究は、DNA損傷依存的に発現するSMCタンパク質であるRecNのDSB修復における役割を詳細に解析し、DNA鎖間の空間的制御とDSB修復促進のメカニズムを明らかにする。昨年までの研究から、MMC(マイトマイシンC)処理により核様体の断片化が観察されたrecN欠損細胞において、アラビノース誘導系を使ってRecNを発現させると、生存率および核様体構造が野生型レベルまで回復する現象を発見し、iRFN (induced reconstruction of fragmented nucleoids)と命名した。今年度は、これまでに実施したGFP-RecNを用いた細胞内局在の蛍光観察に加えて、RecA-mCherryまたはHU-mCherryとの共発現下における核様体構造の再構築過程を詳細に解析した。その結果、DAPIで染色されない断片化核様体のギャップ領域はDSBによって核様体ドメイン構造が壊れたことでDNAの統合性が失われた領域であることがわかった。さらに、RecA及びRecNはこのギャップ領域で共局在しており、RecAによるHR反応がRecNにより再活性化されることで核様体構造の再構築が起こることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、iRFN におけるRecA、RecN、核様体の動態を詳細に解析し、RecAによる組換え反応の促進に欠かせない染色体レベルの動態制御機構の解明を目的として以下の実験を行なった。 GFP-RecNとHU-mCherryまたはRecA-mCherry共発現細胞を使った蛍光観察 これまでの蛍光顕微鏡を用いた研究から、DNAクロスリンク剤(MMC)処理したrecN欠損細胞において、アラビノース誘導系を使ってGFP-RecNを発現させると、RecNが断片化した核様体間のギャップ領域に局在することを見出した。今回、我々は、断片化した核様体とRecNの動態解析を進めるため、タイムラプス解析が可能な蛍光顕微鏡を用いて、RecNの発現後の局在と核様体の構造変化のライブ観察をおこなった。この際、生細胞において核様体を観察する必要があるため、核様体結合タンパク質の1つであるHUにmCherryを融合したタンパク質を発現する株を構築した。その結果、DAPI染色時には核様体の断片化として観察されていたギャップ領域にもHU-mCherryの微弱な蛍光が観察されたことから、recN欠損細胞のDAPI染色で検出されない核様体間のギャップ領域は、核様体の凝縮したドメイン構造がDSBによって分断され緩んだ状態となり、DNA密度の低下によりDAPI非染色の隙間となって観察されていたことがわかった。さらに、RecNの発現後はこのギャップ領域にRecNがドット上に蓄積していき、時間経過と共にギャップ領域が消失することがわかった。また、RecA-mCherryとの共発現では、recN欠損細胞の核様体ギャップ領域にRecAが局在しており、その後のRecNの発現によって、RecAとRecNがギャップ領域で共局在している結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施した生細胞ライブ観察について、RecNの発現時期を変えた条件で実験を行い、さらに、RecNの変異体を用いた解析も加えて、RecNの局在や核様体の再構築に必要なRecNの機能ドメインの解明に関する研究を行う。 RecAフィラメントによる相同鎖の探索から鋳型鎖との鎖交換に至る過程において、RecNはこれらの反応を支える空間的な制御に関わっている可能性が示された。そこで、一般的なin vitro組換え反応とは異なる長鎖DNAを鋳型として用い、さらに低濃度条件でRecAによる組換え反応を検出する実験系を構築する。本実験系に精製したRecNを加えて反応の促進効果を検証し、RecNが溶液内の基質DNAの実効濃度を高めるはたらきをしていることを明らかにする。そして、上記の蛍光観察と生化学実験を通してRecNの空間的な制御メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
生細胞ライブ観察に使用する株の作製及び、タイムラプス解析の実験条件の検討に時間を要したため、蛍光観察及び変異体解析に関する一部の実験が終了せず次年度に延長されたため。細胞内の発現量解析に用いる抗体及び、変異体タンパク質の精製や解析に必要な生化学、分子生物学関連の消耗品の購入。
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