研究課題/領域番号 |
21K06281
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
岩崎 直子 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (70203370)
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研究分担者 |
赤川 浩之 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (60398807)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | monogenic diabetes / 若年発症糖尿病 / 機能解析 / 発症機序 / 網羅的 / MODY / WES |
研究実績の概要 |
1種類の遺伝子によって若年で発症する糖尿病(単一遺伝子異常による糖尿病:monogenic diabetes)は糖尿病の成因解明において貴重な研究対象である。monogenic diabetesの大半を占めるMODY(maturity onset diabetes of the young)が個別化医療の適応であることが近年明らかにされており、MODY研究はトランスレーショナル研究としても重要である。しかしながら我が国におけるmonogenic diabetes研究の現状は海外と比較して不十分であり、日本人を対象としたmonogenic diabetes研究成果の発信が求められている。 我々は、原因遺伝子未同定であるMODYの72症例を選択し、全エクソームシーケンス(whole exome sequencing :WES)を用いて原因遺伝子を網羅的に検討した。72例中62例は過去のSanger sequencing(MODY1, 2, 3, 5を検討)で原因遺伝子が同定できなかったサンプルである。 対象の糖尿病診断時年齢は16.8±5.3歳(mean ± SD)。結果は、WES解析を最初から行った10例中の7例で原因遺伝子を同定した(内訳はMODY3が3例、MODY1が2例、MODY2とMODY5が各1例)。また、残る62例の中から、PDX1, ABCC8, INSR, WFS1の遺伝子変異例を各々1例ずつ見出した。加えて、ゲノム構造異常によるMODY1を1例検出した。全体の検出率は12/72 (16.7%)であったが、WESで開始した10例では70%と検出率が高く、WESは極めて有用であった。過去の検討例の62例においては、稀な遺伝子の変異、未報告変異を同定した。機能解析も加え、国内外での学会発表3例を予定。英論文1編が現在revice中で、さらに数編を投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の予定は未同定サンプルにおける変異同定の検出率を向上させることであったが、WESを用いた結果、上述のようにかなりの進捗が認められた。 WESにおいて、当初MODYと考えられていた1症例で非常に早期段階のWolfram 症候群であることが明らかにされた。同定した2種類のpathogenic variantは新規であったことも含めて英文論文として投稿し、minor revisionで採択される予定である。この症例では、WESを用い多検討により、臨床症候が完全に揃わない早期段階でWolfram 症候群が診断されたことが特筆に値する。このように、WES を用い多解析では予期しない遺伝子に変異を同定する場合があることも事前に患者に説明を行うことも含め、専門的な遺伝カウンセリングが必要である。
新規に同定したpathogenic variantは他にもあるので、これらについては機能解析を行う。現在、さきに述べたPDX1遺伝子variantの細胞導入による機能解析に取りかかっており、今年度予定している細胞導入実験にシフトしつつあり、準備段階の検討も一部開始された。
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今後の研究の推進方策 |
候補として見出した未知の原因遺伝子の機能解析を以下の方法によって実施する。 (1) 遺伝子発現組織の確認:新規のMODY原因遺伝子候補が全エクソーム解析によって見出された場合、BioGPSなどの公開データベースを利用して、膵臓などでの発現を確認する。 (2) 細胞レベルでの変異機能の解析:<① 細胞導入>INS-1細胞株でラットゲノムをCRISPR/Cas9を用いて変異と同じアミノ酸置換を導入する。MODYで見出されたのと同一のアミノ酸置換を持つ変異INS-1細胞株を樹立する。複数の変異を持つ細胞株も同様の操作を繰り返すことで取得する。likely-pathogenic variantsを複数併せ持つ個体については、個別導入に加えて複数variant導入株も作成し、同様に細胞機能を評価する。<② 変異細胞株を用いたインスリン分泌解析>、<③ 変異細胞株を用いたトランスクリプトーム解析>野生型および変異体INS-1 cellを様々なブドウ糖濃度培養液で培養してmRNAを回収し、トランスクリプトームキットを用いてライブラリーの作成を行う。これをION Torrentシーケンサーで解析し、発現変化のみられる下流遺伝子を検索し、BioGPSなどにより膵島での発現量を基に重要な標的候補を探す。変異体INS-1 cellで発現低下有力候補をINS-1親株にsiRNAによって発現低下させ、インスリン分泌の変化を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿費用としてとっておいたが年度内に採択までに至らなかったため16万円程度が未使用となった。現在再投稿準備中で、マイナー修正で受理される見通しである。
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備考 |
単一遺伝子異常による糖尿病患者を対象とした患者会を設立した。個別化医療の推進と遺伝学的検査の保険収載に向けて、患者さんに有用な情報を提供し、支援することが設立の狙いである。
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