地球上の二酸化炭素は、光合成生物がもつルビスコ酵素により有機炭素へと固定化されている。ルビスコは地球上で最も豊富に存在する酵素として知られているが、二酸化炭素との親和性が低く、非常に効率の悪い酵素としても有名である。海洋に溶けた二酸化炭素の大半は重炭酸イオンの状態で存在しており、ルビスコはこれを固定化するこができない。そのため、水圏に生息する微細藻類は、効率的に二酸化炭素を濃縮固定化する器官である「ピレノイド」をもつ。ピレノイドはルビスコが高密度に集積した器官で、藻類細胞に取り込まれた重炭酸イオンはピレノイド近傍で二酸化炭素に変換され、ルビスコへと届けられると考えられている。しかし、ピレノイドで働く分子機構は、緑藻と珪藻の一部の種を除いて、明らかにされていなかった。本研究では海産藻類であるクロララクニオン藻を用いて、ピレノイドに局在するタンパク質を明らかにすることで、そこで働く分子機構の解明を目指した。先行研究で行ったプロテオーム解析で同定した約150個のピレノイド候補タンパク質の中から、本研究では8個の新規ピレノイドタンパク質を明らかにした。そこには、ルビスコの集積に関与すると思われる巨大天然変性タンパク質や重炭酸イオンから二酸化炭素への変換を触媒する炭酸脱水酵素、機能未知の加水分解酵素や膜タンパク質が含まれていた。そのほとんどはクロララクニオン藻に特異的なタンパク質で、他の藻類で報告されているピレノイドタンパク質とは大きく異なっていた。つまり、藻類に普遍的に存在するピレノイド(二酸化炭素濃縮固定器官)は、藻類グループごとに独立に収斂進化してきたことを示唆している。本研究成果は、国内外の学会・シンポジウム、および投稿論文として報告した。
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