研究課題/領域番号 |
21K06288
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡田 和久 大阪大学, 微生物病研究所, 特任准教授(常勤) (40420434)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | コレラ菌 / 変異バイアス / 環境適応 / 病原性 / 進化 |
研究実績の概要 |
細菌の進化において非ランダム突然変異及び適応突然変異の関与についての理解はきわめて不充分である。本研究は、コレラ菌の特殊環境下で認めた非ランダム突然変異について検証すると共に、その変異がコレラ菌にもたらす意義について理解することを目的としている。 令和3年度はコレラ菌を貧栄養下で長期培養すると鞭毛関連遺伝子に偏向的に変異が発生する現象を確認した。 最初に親株のゲノムを決定した(MinIONとMiseqシークエンサーにより塩基配列データを取得し、Unicycler v.0.4.8でアセンブリし、Busco v.5.1.3を用いてゲノムが高い精度でアセンブリされていることを確認した)。次に親株を60日間培養し、その菌液を平板培地に撒き、コロニーを形成させた。ランダムに30個のコロニーを選択し、各コロニーに対して、運動能、溶血能、タンパク分解能、カタラーゼ活性、バイオフィルム形成等についての表現型確認試験を行い、全表現型パタンを含むようにコロニーを選択した。計4回の独立実験を行い、最終的に20のパタンを含む29株のゲノム配列を決定した。変異が検出された部位数は計152、遺伝子数は142で、1株当たり平均4.9個の遺伝子に変異を検出した。22株(75.9%)が、鞭毛関連遺伝子に変異があり、その多くが運動性を欠損していた。さらに、貧栄養下のコレラ菌を経時的に回収し、ゲノム解析を行った結果、培養初期(10日目)から鞭毛関連遺伝子に変異が確認され、60日目までに多くの株が鞭毛関連遺伝子に変異を受けていた。 鞭毛関連遺伝子欠損株は人工海水培地等で長期培養すると、親株に比して培養能を維持することを認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験の結果を支持するデータが得られ、検証ができたため。1)本研究期間において行った6回の独立試験においても、コレラ菌を貧栄養下で長期培養すると鞭毛関連遺伝子に偏向的に変異が発生する現象が認められたこと。2)鞭毛関連遺伝子欠損株を、人工海水培地等で長期培養すると、親株に比して培養能を高く維持したこと。以上の2点は本研究の目的達成に向けた大きな進捗となった。
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今後の研究の推進方策 |
1)運動性の消失・低下は、生存しているが培養できない状態(VNC)への移行を抑制する現象であることが示唆されたので、これについて別の方法でさらに検証する。例えば、ポリミキシンBなどの薬剤で、運動を抑制することでVNCへの移行は抑制されるかどうかなど。 2)60日を越えてさらに培養したコレラ菌のゲノム変化や表現型の変化に関する解析を行う。 3)親株と運動性欠損株間において長期培養後に栄養を添加した際の増殖能や運動能の変化について比較する。 4)長期培養後、mutS遺伝子に非同義置換が認められた変異株が、多くの変異を有していたことから、mutS遺伝子の破壊株を作製し、変異発生パタンを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は長期培養を行う必要があり、研究の進捗状況により計画の影響を受けやすい。今年度は若干の変更が生じた。バイオインフォマティクス解析を優先したため、関連試薬の購入において次年度使用が生じた。
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