研究課題/領域番号 |
21K06289
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
濱田 麻友子 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (40378584)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 共生 / ゲノム / 刺胞動物 / ヒドラ / 進化 |
研究実績の概要 |
本研究では近縁種間で異なる栄養獲得戦略を取るヒドラを用いて、種分化の分子メカニズムの解明を目指している。ヒドラ属には、細胞内共生クロレラと栄養面で相利共生の関係にあるグリーンヒドラと、非共生性で捕食によって栄養を獲得する比較的大型のブラウンヒドラが存在している。また、グリーンヒドラの共生クロレラは栄養面でヒドラから供給される栄養に完全に依存しており、ヒドラー共生クロレラの共進化が示唆される。さらに興味深いことに、グリーンヒドラとブラウンヒドラの分岐の直後にブラウンヒドラ系統ではレトロトランスポゾンの大規模な挿入によるゲノムサイズの増加が起こっており、このことがヒドラ属の生存戦略の違いを生み出した原因の一つになっているかもしれない。そこで本研究ではブラウンヒドラ進化におけるトランスポゾン等のゲノムサイズ増大への関与とグリーンヒドラ進化における共生クロレラの関与から、種分化の分子メカニズムを解明することを目的とする。 これまでに、グリーンヒドラHydra viridissimaとその共生藻Chlorella sp. A99両方のゲノム情報を用いて共生関係における相互作用に関係する遺伝子の特徴などを明らかにしてきた。また、ブラウンヒドラHydra vulgaris AEPのOxford Nanopore社のMiNIONを用いたロングリードシーケンスを行い、その結果を得ている。本年度はこれらの結果と既知の刺胞動物ゲノムとの比較により、ブラウンヒドラのゲノム進化に特徴的な性質を探索したところ、ブラウンヒドラにおける遺伝子とトランスポゾンの同時大規模重複がおこっている領域があることが明らかになった。さらに、グリーンヒドラから高分子ゲノムDNAを抽出し、現在ロングリードシーケンスを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度得られたブラウンヒドラH. vulgaris AEPのロングリードシーケンスの結果を用い、トランスポゾンや遺伝子の重複を探索した。H. AEPのゲノムは、すでにゲノムが解読されているブラウンヒドラH. vulgaris 105と同様、1Gb以上の大型のゲノムで、LINEトランスポゾンのがゲノム内で大幅に増幅していた。さらに、いくつかの遺伝子ファミリーでは大規模な遺伝子重複が見られ、ゲノム上にタンデムに並んでいた。興味深いことに、これはトランスポゾンの増幅と同時発生しているようである。また、これら遺伝子群は神経や免疫に関連するものが多く含まれていた。以上の結果は、ブラウンヒドラにおけるゲノムサイズの増大は、トランスポゾンの増幅だけでなく、それに伴うゲノム領域の重複によるものであることが示唆される。さらにこのことによって、大規模な遺伝子重複が起こっている遺伝子ファミリーがあり、ブラウンヒドラの生態的特徴との関連が示唆される。これはブラウンヒドラで特異的に起こっており、グリーンヒドラではこのような遺伝子重複は見られなかった。 グリーンヒドラゲノム解析は前年度に完了させる予定であったが、充分量の高分子ゲノムDNAを得るための材料の準備や条件検討に時間がかかったため、「やや遅れている」とした。現在は充分量のDNAを得ることができたため、ロングリードシーケンスを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、現在進めているグリーンヒドラのロングリードシーケンスの結果を、これまでに得られたブラウンヒドラゲノム解析の結果と比較し、遺伝子重複やトランスポゾンの増幅の観点からこれらのゲノム進化の特徴を明らかにする。 グリーンヒドラシーケンスデータが得られ次第、アセンブルと遺伝子モデルの構築を行う。遺伝子領域とリピート配列領域の分布やメチル化領域の特定を行い、近傍の影響を受けている可能性のある遺伝子を同定する。以上の結果をブラウンヒドラとグリーンヒドラで比較し、その違いを明らかにする。また、グリーンヒドラまたはブラウンヒドラにおいて重複やメチル化が見られる遺伝子についてはmRNA-seqやリアルタイムPCR, in situ hybridizationなどで発現パターンの解析を行い、両種に差があるかを確かめる。 グリーンヒドラの共生クロレラの遺伝子構成とトランスクリプトーム解析の結果は論文として今年度中の投稿と受理を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
グリーンヒドラゲノム解析に必要な高分子ゲノムDNAがこれまで十分に得られなかったことから解析が遅れていた。抽出方法を改良することでシーケンスまで進めることができたが、その解析にかかる費用は次年度に回すこととなった。共生クロレラゲノム解析の結果は前年度までに論文としてまとめる予定であったが、追加実験を加え構成を変更することになったため、英文校閲や投稿料は次年度に回すことにした。 本年度はゲノムシーケンスにかかった費用(約50万円)と、一般試薬・消耗品として分子生物学実験用の試薬・実験器具用のガラス製品ガラス・紙、プラスチック製品の購入(約50万円)、mRNA-seqの外注のための予算(約40万円)、英文校閲・投稿料(30万円)を計画している
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