研究課題/領域番号 |
21K06293
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
田村 浩二 東京理科大学, 先進工学部生命システム工学科, 教授 (30271547)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | tRNA |
研究実績の概要 |
アラニルtRNA合成酵素(AlaRS)はtRNA(Ala)中のG3:U70塩基対を特異的に認識して、tRNA(Ala)にAlaを結合させていることが長く知られてきたが、最小のゲノムサイズを有する古細菌Nanoarchaeum equitans (ナノアーキア)のAlaRSは、α鎖のみではG3:U70塩基対に依存しないアミノアシル化活性があり、β鎖が加わると初めてG3:U70塩基対に依存した活性を生み出すことが分かっている。このメカニズムは未解明だが、当該年度は、前年度から引き続き、β鎖において、G3:U70塩基対認識に関係する可能性のある残基の変異体を作製し、研究を行った。ナノアーキアのAlaRS-βでは保存されていない(イソロイシンになっている(I50))が、超好熱硫酸還元古細菌Archaeoglobus fulgidusにおける立体構造でG3認識に関係していると考え、また多くの生物種のAlaRSでも保存されているアスパラギン酸残基に注目し、I50をアラニンに換えた変異体(I50A)の他に、I50近傍に存在するアスパラギン酸・グルタミン酸クラスター(DEE)をグリシンに変換した変異体を作製して、RNAミニヘリックス(tRNAの原始形とされるRNA)のアミノアシル化解析を行った。しかしながら、これらの変異体は、いずれも天然型と同様の活性を示したので、未知の認識機構が存在していることが考えられる。また、これらに関連して、シュレディンガー方程式に基づいた量子力学計算とニュートンの古典力学に基づいた分子力学・分子動力学計算を組み合わせたシミュレーション法によって、遷移状態を含む「L-アミノ酸選択的なRNAのアミノアシル化反応」の全体のメカニズムを初めて明らかにし、実験においては不明であったL-アミノ酸が選択的に反応しやすい理由を計算機シミュレーションで解明した。加えて、原始tRNAの進化生成メカニズムにも関係したリガーゼリボザイムの反応機構について、学術論文発表や学会発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究推進の基盤となる実験系や材料の構築は順調に進んでいる。コロナ禍の中、試薬や器具の準備に時間がかかったり、反応を生み出すアミノ酸残基の特定までには至っていないものの、総合的な観点からは、大きな遅れにはなっていないと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続いて、G3認識に寄与するAlaRS-β上の残基を特定するための変異体の作製を推進する。この際に、点変異に留まらずに、Archaeoglobus fulgidus AlaRSの立体構造をもとにした領域単位の変異や複数の点変異の組み合わせを試みたい。一方で、G3:U70塩基対に依存しないアミノアシル化活性を生み出すAlaRS-αに関する構造生物学的な取り組みにも着手していきたい。
|