研究課題/領域番号 |
21K06295
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
植木 紀子 法政大学, 法学部, 教授 (80415116)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多細胞化 / 大型化 / ボルボックス目 / 光反応 / 鞭毛 / 繊毛 |
研究実績の概要 |
緑藻ボルボックス目は、単細胞生物のクラミドモナスから数千細胞から成るボルボックスにいたるさまざまな細胞数から成る種を含んでおり、これは多細胞化進化の過程を反映していると見なすことができる。つまり、現存する生物で進化の過程を研究することができる稀有な生物群であると言える。申請者は、細胞数の違いにかかわらずこの生物群のほとんどが顕著な走光性行動を行うことに着目している。このことは、単細胞生物から細胞数を増加させる進化の過程で多細胞生物としての環境応答行動システムが獲得されたことを示している。本研究では、ボルボックス目の細胞数の異なる種について光に対する反応や行動を比較解析することで、多細胞化進化における光環境応答機構変遷の全体像を解明することを目指す。申請者はこれまでにボルボックス目全体に渡る20以上の種について、急な光強度変化に対する鞭毛運動の変化を高速度撮影し、その様式が大きく4パターンに分類されることを明らかにした。さらに、それらの中間的なパターンが存在することも見出している。このことは多細胞化進化過程で鞭毛光反応様式の連続的な変化があったことを示唆しており、興味深い。以上の鞭毛運動レベルの解析に加え、今後、個体レベルの走光性行動を観察・定量していく計画である。さらに、鍵となる種を選び出し鞭毛軸糸レベルの特徴を明らかにすることで、多細胞化進化における細胞数に応じた環境応答行動システム獲得の流れを俯瞰したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、ボルボックス目の多細胞種23種26系統を選定し、研究室内で安定して培養・維持できるように条件を整え、生理学実験のための最良の状態を得ることを可能にした。ボルボックス目の種が急激な光強度変化にさらされた時の鞭毛の反応には「繊毛型波形から鞭毛型波形へ一時的に波形変換をする」「反応をしない」「鞭毛運動自体を一時的に停止する」「一時的に鞭毛の打つ方向を変化させる」というパターンがある。現在のところ25系統についてどのパターンに当てはまるかを高速度撮影により特定することができている。さらに、4パターンの中間的な形質を示す種が複数存在することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
上記の鞭毛光反応パターンと個体レベルの行動を結びつけるため、走光性行動を観察・定量する計画である。これまでに16細胞から成る種であるPandorinaについて定量を完了している。上記の鞭毛レベルの観察では同一の観察方法が適用できたのに対し、走光性行動を扱う際は個体サイズに応じてそれぞれの種に適した装置や条件を検討する必要が生じる。そのため各鞭毛光反応パターンに代表的な種を選定した上で、個体の行動を定量していく。その後、それらの結果を元に鍵となる種を厳選し、除膜細胞モデルの運動再活性化実験によって軸糸レベルの特徴を探っていく計画である。鞭毛運動レベル・個体の運動レベル・鞭毛軸糸レベルという各階層の特徴を求めた上で、細胞数に応じた環境応答行動システム獲得の流れを俯瞰したい。
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