研究課題/領域番号 |
21K06296
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
前田 健 沖縄科学技術大学院大学, 海洋生態進化発生生物学ユニット, スタッフサイエンティスト (20572829)
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研究分担者 |
飯田 碧 新潟大学, 佐渡自然共生科学センター, 准教授 (30745328)
山崎 曜 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 助教 (40816021)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 回遊 / 初期生活史 / トランスクリプトーム / 卵サイズ / 耳石 |
研究実績の概要 |
2021年度は、沖縄島の河川および河口周辺の海域において、河川性(一生を川で過ごす)のアオバラヨシノボリとキバラヨシノボリおよび両側回遊性(仔魚期を海で過ごす)のヨシノボリ属複数種の仔稚魚を採集した。採集された仔稚魚サンプルの形態観察を行い、孵化直後から着底後までさまざまな発育段階の仔稚魚が含まれることを確認した。両側回遊性の種の多くは形態による種同定が困難であったため、RNAを抽出しRAG2遺伝子の配列により種同定を行い、当初目的のアヤヨシノボリとクロヨシノボリに加え、シマヨシノボリも多く含まれていることを確認した。これら5種の仔稚魚サンプルをできる限り多くの発育過程が含まれるように選定し、RNAシーケンシングを行った。 フィリピンのパラワン島で採集されたヨシノボリ属2種の分類と系統の研究を進め、11月に新種Rhinogobius estrellaeとRhinogobius tandikanとして記載した論文を公表した。また同じ論文の中で、ミトコンドリアゲノムの解析により、これら2種がゴクラクハゼとともに本属中最も古い系統に含まれることを示した。ヨシノボリ属は温帯と亜熱帯の大陸や島嶼を中心に分布し、パラワン島はこれまで知られていたヨシノボリ属の分布域のはるか南に位置する。新種の発見により、ヨシノボリ属の分布の南限が更新された。異なる環境間で回遊パタンや卵サイズを比較し、回遊パタン進化の適応的意義を解明することが本研究の目的の1つであり、本研究において両種は、熱帯島嶼に住むヨシノボリ属として非常に興味深い対象となる。新種記載され系統関係が示されたことにより、これらの種の回遊パタンや生活史の研究を進め、公表する道筋をつけることができた。 また、2021年度は、回遊パタンを調べるための耳石サンプルの選定、準備を進め、2月からは、卵サイズの研究のための成熟雌の採集を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仔稚魚サンプルの採集は、当初2022年度にもまたがって行う予定であったが、2021年度にすべて終えることができた。種同定が想定していたよりも難しく、時間を要したが、一通りのサンプルを収集することができた。種によっては欠けている発育段階があるものの、複数種の解析を行うことで補うことができると考えている。この点で、当初の計画以上に進展していると言える。 フィリピン産のヨシノボリ属の分類を決定できたのは大きな進歩である。これにより、パラワン島産の種の回遊パタンや生活史の研究を進め、公表する道筋をつけることができた。一方で、本研究で対象とするベトナム産の種にも未記載種が含まれており、これらの分類を解決する必要があるが、本年度は公表には至っていない。 その他の項目は、順調に準備を進めているものの今のところ大きな進展はない。
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今後の研究の推進方策 |
仔稚魚サンプルには、一部の発育段階が欠けている種があるが、未同定の仔稚魚の同定を進め、対象種が含まれていた場合は、追加サンプルのRNAシーケンシングを行いたいと考えている。その上で、2021年度にシーケンシングした分と合わせてトランスクリプトーム解析を行い、両側回遊性の種と河川性の種の間で遺伝子発現パタンを比較する。また、2021年度に採集した仔稚魚サンプルから材料を選定し、甲状腺ホルモンの測定の準備を進める。 ベトナム産ヨシノボリ属の分類を決定するために、形態観察を進める。また、ミトコンドリアゲノムの解析によりベトナム産ヨシノボリ属の各種間には幅広く交雑が起こっている可能性が示唆されたことから、2022年度は、ddRADseqを用いてそれらの系統関係を明らかにしたいと考えている。 卵サイズ比較のためのサンプルの収集を進め、卵巣の染色組織切片を作成する。また、フィリピン産およびベトナム産ヨシノボリ属の耳石の解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
仔稚魚のサンプリングの一部は研究分担者も参加して行う計画であったが、covid-19の感染拡大に伴う沖縄県のまん延防止等重点措置や緊急事態措置により、研究分担者の旅行を中止した。そのため計上していた旅費が未使用となった。未使用分は、可能であればミーティング等のための旅費とする、または次年度予定する解析をより効果的に行うための消耗品費として使用する予定である。 耳石の解析や生殖腺組織サンプルの解析について、準備を進めているが、消耗品を使用する段階には至っておらず、これらは次年度使用とした。
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