研究課題/領域番号 |
21K06300
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田城 文人 北海道大学, 総合博物館, 助教 (70737478)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 分類学 / 広域分布 / 深海性魚類 / 形態学 / 分子系統学 / 生物地理 |
研究実績の概要 |
本研究では,深海底生性魚類の代表分類群の1つであるウナギ目ホラアナゴ科を対象にして,(1)形態学的・遺伝学的データに基づく多角的な分類学的再検討を行うことで日本周辺海域における分布種を正確に認識すること,(2)各種の分布特性を明らかにし,それらを海洋環境データ等と組み合わせることで,分散能力や分散制限要因を考察すること,(3)日本周辺海域で得られた知見を総合することで,世界規模での本科種多様性を再評価すること,以上の3点を目的とする. 2021年度はまず材料標本の収集を実施した.新型コロナウィルスの影響が当初予想よりも深刻となり,今年度に計画していた野外調査や博物館での標本観察(国内・国外)がほぼ延期もしくは中止となった.一方,研究協力者等からの提供により,主にホラアナゴ属で100個体以上の新規標本を得ることができた.年度後期にそれら新規標本および既存標本を用いたDNA解析(まずはmtDNAのCOI領域)を開始し,対象となるほぼ全ての種で遺伝子配列の決定に成功した.しかし,効率的な実験のためには他のプライマーセットの選出が必要であることも明らかとなった.標本の形態観察においては,リュウキュウホラアナゴ属で既知種とは顕著に異なる形態特徴をもつ標本を認めた.それらを未記載種と判断したため,新種記載論文の発表に着手した.また形態観察の過程で,より安価なX線フィルムを用いて脊椎骨数などの内部骨格情報を取得する手法を開発した.これにより,限られた予算内で,当初の想定よりも多くの個体のデータ蓄積が可能になった.この新規手法は,本研究課題のみならず,魚類分類学分野においてきわめて有益な手法となることが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響で年度前・中期の活動が大幅に制限を受けた.これにより,特に材料標本収集やDNA実験の進捗に大きな影響が出た.一方,研究協力者等から資料の提供がなされたこと,既存標本の観察はできたこと,当初予定よりも遅れてはいるがDNA解析も開始できたこと,今後の研究の関わる大きな進展(未記載種の発見およびX線撮影の低コスト化)があったことを踏まえ,一定の進捗が認められると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
社会状況の動向を注視しながら国内・外の出張を本格的に開始し,材料標本の入手を進める.2021年度に自身の研究室にDNA実験の設備を一部整備することができたので,次年度は特にDNA解析に注力する.形態データと環境データの蓄積は継続して実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の前・中期は,新型コロナウイルスの甚大な社会的影響が生じ,研究材料の入手を目的とした国内・外への出張が全て中止となった.それに伴い,DNA実験の開始が著しく遅れたことも大きく影響している.次年度も社会情勢を注視しつつ,出張旅費や物品費(とくに実験基盤が整ったDNA実験関連を増強)として使用する.
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