本研究では、被子植物の大部分を占めるキク類(asterids)において、2珠皮性胚珠から1珠皮性胚珠への進化がどのような過程で起こったのかを明らかにする。キク類のツツジ目を研究対象とし、初めにツバキ科に関する生殖器官の解剖学的形質進化を明らかにした。ツバキ科に関する生殖器官の解剖学的研究は、これまでチャノキ連とタイワンツバキ連にのみ研究例があるが、ツバキ科の最初に分岐するナツツバキ連に関する研究例はなかった。そこで、ナツツバキ連ナツツバキ属3種(ナツツバキ、ヒメシャラ、ヒコサンヒメシャラ)について観察を行った。その結果、ナツツバキ連は2珠皮性胚珠で薄層珠心を持つことや、外珠皮が表皮由来の組織から発生することでツバキ科の他の2連と共通していることがわかった。一方で、胚嚢形成様式がタデ型であることがタイワンツバキ連の一部がもつネギ型と異なっていたが、これはネギ型が独自に進化したものと考えられた。また、ナツツバキ連には内外珠皮に維管束が通らないことで他の2連と異なっていたが、ツバキ科と近縁なハイノキ科などとの比較から、内外珠皮に維管束が通らないものから、チャノキ連とタイワンツバキ連のそれぞれで内珠皮と外珠皮に維管束が通るように進化したものと考えられた。以上の結果を論文として投稿している。本研究により、全てのツバキ科で2珠皮性の胚珠が見られることが判明したため、2珠皮性胚珠から1珠皮性胚珠への進化はツバキ科よりも原始的なツツジ目植物で起こった可能性が示唆されたため、広義サクラソウ科の生殖器官の解剖学的研究を行う必要が生じた。そのため、広義サクラソウ科のイズセンリョウやマンリョウなどの材料を収集し、顕微鏡切片の作製を開始した。また、ツバキ科と姉妹群の関係にあるハイノキ科やイワウメ科などの材料の収集も行った。
|