研究課題/領域番号 |
21K06303
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古屋 秀隆 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (20314354)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 逸出 / 両性生殖腺 / 軸細胞内 / 蠕虫型幼生 / ニハイチュウ / 包膜 / 滴虫型幼生 |
研究実績の概要 |
ニハイチュウは、底棲頭足類の腎嚢に生活する多細胞動物であり、体を構成する細胞はわずか20~40個で構成される。体制は極めて単純で、中央に位置する長い軸細胞を繊毛が生えた一層の体皮細胞からなる。このシンプルさゆえニハイチュウには口や肛門がなく、栄養分(尿)の摂取や老廃物の排出は、すべて体の表面を通して行われる。生活史には無性世代と有性世代がみられ、それぞれからタイプの異なった幼生が発生する。無性世代の成体(ネマトジェン)では、軸細胞内のアガメートから無性的に蠕虫型幼生が発生する。腎嚢内で無性世代の個体数が増すと、有性世代の成体(ロンボジェン)に相転換するとされる。ロンボジェンの軸細胞内では、アガメートとよばれる生殖系の細胞から両性生殖腺が生じ、卵と精子が形成される。そこで自家受精が起こり、滴虫型幼生が生じる。2種類の幼生は自身を覆う細胞膜(包膜)に包まれる。 昨年度の研究で、生殖口をもたないニハイチュウの成体から、それぞれ蠕虫型幼生と滴虫型幼生が生まれ出る過程を明らかにした。ヤマトにハイチュウとミサキニハイチュウを用いて、それらにみられる2種類の幼生の逸出プロセスをビデオ撮影をし、詳細に観察した。その結果、成体の軸細胞膜を破り、体皮細胞の隙間を通り抜けること、包膜や成体の軸細胞内に多く存在する小胞が軸細胞の細胞質が漏れ出るのを防ぐ機能を有することも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生殖口をもたないニハイチュウの成体から、それぞれ蠕虫型幼生と滴虫型幼生が生まれ出る過程は不明であった。本研究でその幼生が生み出される過程が明らかになり、さらに幼生が逸出した後の経路が修復されることも明らかにした。多細胞動物の中で最も簡単な体制をもつ動物の幼生の生み出しと生殖口をもたない動物の新たな生み出し方法が明らかにされた。
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今後の研究の推進方策 |
ニハイチュウの蠕虫型幼生は腎嚢内にとどまり、宿主の尿に含まれる栄養分を取り込んで成長し、無性生殖によって個体数を増大する。一方、滴虫型幼生は宿主から尿とともに泳ぎ出て、新たな宿主に至るとされている。成体および蠕虫型幼生は、宿主頭足類の腎臓表面に頭部を接着させ生活し、腎上皮から排出される新鮮な尿を養分として吸収している。多くの無脊椎動物は化学物質などに対し走性を示すため、この腎上皮への接着は、走性によるものであると考えられる。それが尿中に含まれる物質によるもの(化学走性、走化性)か、流れによるもの(走流性)か、接触を続けることによるもの(接触走性)かを明らかにしたい。さらに、腎付属体に接着せず、宿主から泳ぎ出て頭足類の腎嚢に至るとされる滴虫型幼生における走性も明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたサンプリングや採集旅行が十分に実行できなかったため。
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