・共進化の実態 頭足類とニハイチュウ類の共進化の実態を明らかにした。両者は厳密には共進化しておらず、ある種は他の宿主にホストスイッチしていることが判明した。つまり、腎嚢内の種構成は、ある祖先種から種分化した種群に加え、新たにホストスイッチしてきた外来の種からの2系統の要素から成ることが判明した。種分化した種とホストスイッチによって移入する外来種では、腎嚢上の空いたニッチに合う形質“形態”が選択されることが示唆された。 ・分子系統解析と新しい分類体系の構築の必要性 ニハイチュウ類の種分化過程を明らかにするために種間の分子系統解析を行った。ミトコンドリア遺伝子(COI)の塩基配列を決定し、それら塩基配列を利用して系統解析を行った。分子系統解析により、重要な形態形質である極帽の形態やそれを構成する細胞数が系統を反映しないことが明らかになり、系統の各枝で収斂していることが判明した。これら結果から形質の整理を行い、分類体系を見直し、新たな体系を構築する必要性が生じた。 ・生殖口のない成体から幼生を生み出す方法 ニハイチュウの生活史には無性生殖と有性生殖の2つの生殖様式がみられ、それぞれ蠕虫型幼生と滴虫型幼生とよばれる2タイプの幼生が発生する。成体の体の中で発生した幼生は、隣接する体皮細胞間の隙間を通って成体から出るが、幼生を取り囲む被覆膜を破壊して逸出する。その経路は幼生が残した被覆膜で閉じられる。 ・プロジェニシス 有性生殖で生じる滴虫型幼生は、通常は一定のサイズに成長した成体で生じるが、一部の小型の個体にも生殖腺が形成される場合もある。これは形態的に未分化な状態において生殖腺が成熟したプロジェネシス型個体と考えられる。プロジェネシス型個体が寿命の短いホストに寄生するニハイチュウ類に多くみられることから、これは生殖腺の成熟を早め、早い時期での幼生の形成を優先する適応と考えられる。
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