研究課題/領域番号 |
21K06306
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
辻田 有紀 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80522523)
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研究分担者 |
遊川 知久 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, グループ長 (50280524)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 菌根共生 / ラン科 / 系統分類 / 菌類 / 海洋島 |
研究実績の概要 |
トサカメオトランは国内ではこれまで琉球列島でしか分布が知られていなかった。しかし、2009年に小笠原の無人島向島で発見され、その後母島でも生育が確認されており、ごく最近小笠原諸島へ分布が拡大したと考えられている。ラン科植物の種子は、微細で長距離の飛散が可能である反面、貯蔵養分を蓄えておらず、発芽時に特定の共生菌類から栄養供給を受ける必要がある。また、共生菌からの栄養供給は成熟後も継続する。必要な菌の種類や数は、ランの種によって様々であり、また、発芽時と成熟時で共生する菌類相が変化するケースも知られている。そこで本研究では、小笠原の海洋島へ定着する際にどのような菌類が関与していたかを明らかにするため、小笠原に自生する成熟個体の根を採取し、DNA分析によって共生菌の種類を特定する。また、自生地播種試験法を用いて自生地での種子発芽に関わっている共生菌を明らかにするとともに、シャーレ内で種子と菌を共生培養し、in vitro下で発芽に関与する菌種を特定する。さらに、小笠原へ移入した際に、現地でこれまで共生してこなかった新たな菌をリクルートして定着したのか、あるいはこれまで他の分布地で共生していた同類の菌が小笠原にも存在していたのかを明らかにするため、比較対象として琉球列島の個体群についても同様の調査を行う。R3年度は琉球列島、R4年度は小笠原諸島のトサカメオトランについて、共生菌を調査した。種子発芽に必要な菌を特定するため、in vitro下での種子発芽試験を行なうとともに、小笠原および琉球列島の自生地での自生地播種試験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度に採取した琉球列島の個体群については、概ね共生菌の解析が完了し、主要な共生菌は担子菌のツラスネラ科であることが明らかとなった。初年度はコロナ禍で小笠原の現地調査が実施できなかったが、R4年度の秋に現地訪問が実現し、サンプルを採取して現在解析を進めている。種子発芽に必要な共生菌を特定するため、in vitroで共生菌の菌株と種子を共培養し、発芽誘導に関わる菌種の特定に成功した。また、自生地で発芽する共生菌を特定するため、種子をナイロンメッシュの袋に入れ、琉球列島と小笠原諸島の自生地に埋設している。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度に採取した小笠原個体群の共生菌解析を完遂し、琉球列島の個体群と比較することで仮説検証を行う。共生培養試験の結果、琉球列島の個体群では、成熟個体が共生している菌群のうち一部のみが発芽誘導能力を持つことが明らかとなった。本年度は小笠原の個体群について同様の試験を行う。また、琉球列島と小笠原諸島に埋設している種子袋を回収し、得られた実生の共生菌を分子同定することで、自生地でどのような菌と発芽しているかを明らかにする。以上の研究成果より、小笠原の海洋島へ定着する際にどのような菌類が関与していたかを発芽時及び成熟時に分けて明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度は、自生地播種試験を行っている琉球列島と小笠原諸島の両方を訪問する予定であり、加えてDNA実験を完遂するための消耗品購入額が前年度より多く見込まれていることから、旅費や物品費を確保するために一部を次年度使用とした。
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