研究課題/領域番号 |
21K06313
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小枝 圭太 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (40774584)
|
研究分担者 |
別所 学 (別所ー上原学) 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (80880434)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 生物発光 / 未記載種 / 分類学的整理 / ハタンポ科 / 野外観察 / 分類 |
研究実績の概要 |
申請研究を遂行した結果、ハタンポ科魚類を含む数多くの海産魚類の標本を観察、計測、撮影をする機会を得ることができた。その結果、ハタンポ科キンメモドキ属の1未記載種(発光種)が新たにみつかった。本標本は、腹部から胸部にかけての発光器の形状が、既知の同属他種と異なるうえ、側線有孔鱗数をはじめとする鱗の計数値、鰭条の計数値、体背縁の形状などにも明瞭な違いが認められた。現在、R. Mooi氏と共同でキンメモドキ属全体の整理を含めた記載論文の執筆に取り組んでいる。形態観察や遺伝子解析の結果によりハタンポ科全体の整理も進み、属の分類学的な整理を進めている。また、ハタンポ科ミナミハタンポの夜間の行動生態も解明され、原著論文として発表されるに至った。さらに、高知県における野外観察の結果、同じ夜行性魚類であるキンセンイシモチが発光する糞をする様子が観察されるなど、夜行性魚類の発光や行動に関する知見を深めた。なお、東京大学総合研究博物館をはじめ、神奈川県立生命の星・地球博物館、高知大学、黒潮生物研究所に収蔵された魚類標本の観察に加え、野外における観察や標本採集の結果、ヒメジ科やネズッポ科、クロタチカマス科、フサカサゴ科、ウミヘビ科などの複数の未記載種や日本初記録種、稀種の発見につながった。これらの発見の一部は原著論文として投稿中、受理済または発表済である。なお、遺伝解析に必要なオーストラリア産標本の採集の予定が新型コロナウィルスの影響により困難となったことから、オーストラリア・ニュージーランドに所在する博物館機関の魚類研究者に連絡し、遺伝標本の提供の手続きを進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の到達目標について、おおむね順調か予定以上の成果が得られている。当初の予定であるハタンポ科魚類の発光のみならず、他の海産魚類についても多数の成果が得られた点において、当初の計画以上に幅広い分野において研究が進展しているといえる。遺伝解析に必要な標本をオーストラリアを訪問して採集し、解析を開始する予定であったものの、新型コロナウィルスの影響により困難となった。このため、オーストラリア・ニュージーランドに所在する博物館機関の魚類研究者に連絡し、遺伝標本の提供の手続きを進めている。すでに標本提供の承諾を得たうえで手続きを進めているところではあるが、解析については多少の遅れがでている。これについては、入手次第に解析を進めることで十分に取り戻せることができるため、全体としてはおおむね順調に進展しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
ハタンポ科の分類学的整理が進んだため、今後はこれらの成果を論文として執筆し、発表する予定である。現在は日本と台湾を中心としたハタンポ属と未記載種が確認されたキンメモドキ属の分類学的再検討に関する原稿の執筆をそれぞれ進めている。今回は新型コロナウィルスの影響により、予定していた海外調査をおこなうことができなかった。また、各博物館機関より遺伝子標本を提供いただく連絡はいただけたものの、現地のロックダウンの影響もありこれらを受領、解析を進めることができていない。今後は、これらの遺伝標本を利用して、現在までにあきらかになっているハタンポ科内の系統関係をより明確にし、属の再記載を含めたハタンポ科全体の整理に取り掛かる予定である。さらに、これらの多くは南半球にのみ分布する発光種であることから、これらが非発光種より分岐した(あるいは非発光種がこれら発光種から分岐した)年代や地誌的な影響を考察することで、ハタンポ科魚類が生物発光を獲得した進化の過程を明らかにすることができると考えている。また、これらハタンポ科の調査と比較として用いた海産魚類の研究の過程で、数多くの未記載種の存在も明らかになったことから、今後はこれらを分類学的に精査し、適宜記載していく予定である。 今回の研究により、ハタンポ科と近い生態学的地位にあるテンジクダイ科キンセンイシモチが発光する様子が確認された。これらの発光のメカニズムは異なることが想定されたものの、実験のノウハウはハタンポ科にも応用可能であり、今後はハタンポ科の発光種を用いた発光の実験を進めたい。これにより、ハタンポ科が発光する意義に迫ることができ、これを獲得するに至った起源の解明にも繋がっていくものと考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
遺伝解析に必要なオーストラリア産標本の採集の予定が新型コロナウィルスの影響により困難となったため。オーストラリア・ニュージーランドに所在する博物館機関の魚類研究者に連絡し、遺伝標本の提供をうけることで研究遂行が可能となった。差額は、必要となった物品の購入に加え、国内旅費による標本収集の拡充に充てる予定である。
|