研究課題/領域番号 |
21K06316
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
藤浪 理恵子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (40580725)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 根 / 茎 / 分枝 / 維管束植物 |
研究実績の概要 |
植物の分枝の起源は古く、初期の維管束植物がまだ根、茎、葉をもたない時代にすでに、軸が単純に二又状に枝分かれしていた。分枝は植物がもつ最も基本的な体制であるが、祖先的な分枝が1本の軸からどのように生じたのかは不明である。分枝出現後、根、茎、葉が進化して多様な維管束植物が進化したことから、植物の形態進化に分枝は重要な形質である。初期の分枝の仕組みを解明するために、鍵を握るのがシダ植物小葉類である。現生の維管束植物のうち、原始的な二又分枝をもつのは小葉類で、初期の維管束植物の姿を残している。本研究はシダ植物小葉類の根と茎の分枝形成の制御機構を解明すること目的とし、分枝形成に重要な役割を担うと多くの知見がある植物ホルモンオーキシンを用いた解析を行い、根と茎のオーキシン応答やその局在について発生解剖学的手法と分子遺伝学的手法から解析することとした。本年度は、ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラを用い、合成オーキシン(NAA)、オーキシン輸送阻害剤(NPA)を各々0.2-100 μMの濃度で、根端と茎頂部分に局所的に塗布し、投与による成長と頂端分裂組織(RAM)の細胞分裂動態を解析した。その結果、NPAを投与した個体で根の伸長阻害がみられた。さらにEdU蛍光染色法を用いてRAMの細胞分裂動態を解析した結果、NPA投与後2日目でRAM全体の細胞分裂頻度が静止中心様領域と同程度にまで低下することが明らかとなった。したがって、ヒカゲノカズラの根は、根頂端部へのオーキシン輸送が阻害されることにより、RAM全体の細胞分裂が抑制され、RAM構造の維持にもオーキシンが関与することが示唆された。今後さらに分枝形成時の影響をさらに解析し、他の小葉類においても同様の解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラを用いたオーキシン処理実験を行うために、5月から12月にかけて定期的に野外採集を行った。人工気象器内で育成し、NAAとNPAを各々0.2-200 μMの濃度で根に投与し、根の成長への影響を約1カ月間、観察を行った。その結果、NAA投与個体では根の伸長増加の傾向がみられたが、未処理との有意な差はなかった。一方、NPA投与個体では25-100 μMの濃度で著しく根の伸長が抑制された。また、二又分枝の形成への影響は、NAAとNPAともにみられなかった。NPA投与時の根の伸長抑制から、根頂端分裂組織にどのような影響が生じているのか明らかにする必要があると考え、分裂細胞を標識するEdU試薬による細胞分裂動態解析を行った。ヒカゲノカズラの根頂端分裂組織は通常、根頂端部に静止中心様領域をもち、その周辺の細胞群は盛んに細胞分裂を行う。NPA投与の根では、処理後2日目から根頂端分裂組織全体のEdU取り込み細胞が減少し、3日目以降では静止中止様領域と同程度の分裂頻度を示した。さらに、7日目以上の個体では、根冠の細胞層が減少し、根頂端分裂組織の領域が著しく縮小することが明らかとなった。これらの結果から、ヒカゲノカズラの根先端部でオーキシンの極性輸送を阻害した場合、根頂端分裂組織の細胞分裂が抑制され、構造が維持されなくなる可能性が示唆された。種子植物のシロイヌナズナやトウモロコシの根において、NPA処理をした場合、静止中心の位置の制御や根頂端分裂組織の構造が崩れるとの報告がされ、オーキシンはRAM構造の制御に重要な役割を果たすとされている。したがって、小葉類ヒカゲノカズラの根頂端分裂組織の構造維持には、種子植物と同様のオーキシンの機能がある可能性が推測される。
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今後の研究の推進方策 |
シダ植物小葉類の根頂端分裂組織(RAM)の構造は4タイプある。そのうち、種子植物の開放型と似ており、QC領域をもつヒカゲノカズラについて本年度は解析を進めた。次年度は、QC様領域をもたない他の3タイプの小葉類の根のオーキシン投与実験を進め、小葉類全体のRAMの形成機構について解析を行う。層状構造のRAMをもつトウゲシバとミズニラモドキ、1つの頂端細胞をもつコンテリクラマゴケを用いてNAAとNPAなどの試薬投与を行い、その成長変化とEdU蛍光染色法による細胞分裂動態を調べ、小葉類全体でオーキシンとRAMとの関係性を明らかにする。トウゲシバに関しては、本年度に実験室内で植物体培養を行い、必要な解析個体数をそろえることができており、オーキシン試薬の投与実験に次年度からすぐに取り組んでいる。さらに、ヒカゲノカズラで既存の抗IAAポリクローナル抗体で根頂端分裂組織のオーキシン局在の可視化するために、野外で根を採集してパラフィン包埋の作成を行い、パラフィン切片の作成を実施する。抗IAA抗体は蛍光で標識されたもので解析を行う予定である。茎の分枝に関しては、根と同様のオーキシン投与の方法では解析が困難であったため、抗IAA抗体による局在解析に重点をおき、解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究の初年度としてヒカゲノカズラのオーキシン投与実験を中心として解析を進め、オーキシンが小葉類の根の構造維持に重要な働きをもつことを示唆することができた。本年度購入した人工気象器を用いた植物体の培養による確実な実験試料の確保が可能となったことと、EdU蛍光染色法の解析に重点をおいた成果である。また、培養実験を行うための実験器具類と試薬の購入を行い、その実験を行うために多大な時間を要した。そのため、本年度に使用する予定であった免疫抗体法を用いたオーキシン局在解析と茎の細胞分裂動態解析のISH法の試薬と器具類の使用を十分に行うことができなかった。次年度ではオーキシン局在解析とISH法に用いる必要な物品を購入し、実験を進める予定である。
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