研究課題/領域番号 |
21K06330
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧本 岳 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90453852)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 送粉ネットワーク / 数理モデル / 生態-進化フィードバック / 共生 / 分化型自然選択 / 生態的種分化 / 局所適応 / 連合学習 |
研究実績の概要 |
植物と送粉者の相互作用が作る送粉ネットワークは生物多様性の宝庫である。本研究課題の目的は、送粉ネットワークの構造を作る進化生態学的メカニズムの解明である。2021年度は、送粉者との相互作用によって植物の生態的種分化が起きる新たな理論的メカニズムを提案する研究を行った。動物が送粉を媒介する植物にとって、生育環境と送粉環境(どのような送粉者を利用できるか)の2つが自然選択の重要な要因となっている。しかし、それらが同時に植物の種分化に及ぼす影響については、まだ十分に解明されていない。本研究では、植物が生育環境に局所的に適応することで送粉媒介者に対する花の報酬が増加する場合、植物の生態的種分化が強く促進されるという理論的メカニズムを提案した。異なる生育環境からの自然選択を受ける2つの植物集団の集団遺伝モデルを用いて、局所生育環境への適応を決める生育形質(生活形など)と送粉者を誘引する広告となる花形質(花色など)の2つの形質の分化進化を考えた。局所生育環境に適応した生育形質を持つ植物は、不適応な植物よりも送粉者に良い報酬を与えると仮定した。送粉者は連合学習により、より報酬の高い植物が示す花形質への好みを強める。もし送粉者の好みが植物集団間で異なる方向に強まると、花形質の集団間分化が起き、生育形質と花形質の間に遺伝的な連関が生じて、生態的種分化に至る。この種分化メカニズムにおいて、送粉者の学習がもたらす花形質への自然選択には頻度依存性がある。そのため、種分化が起きるかどうかは、植物集団の生育環境への局所適応が起きる前に新しい花形質変異が生まれるかどうかにかかっていた。この研究の成果は、植物の種分化のメカニズムを理解する上で、生育環境からと送粉環境からとの自然選択の両方を同時に考慮することが重要であることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、形質進化と個体群動態の両方を組み込んだ理論モデルの開発により、送粉ネットワークの形成・維持機構を解明することを目指している。2021年度に開発した理論モデルは形質進化のみを考慮し、個体群動態を組み込めていない。形質進化と個体群動態の生態-進化フィードバックを組み込んだ理論モデルの開発を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
植物2種と送粉者2種の送粉共生系の個体群動態を記述する数理モデルを構築し解析する。植物ごとに2種類の花形質(送粉をめぐる競争を避ける花形質と送粉者の共有を促進する花形質)の進化動態も記述し、送粉者の適応的採餌も組み込む。このモデルを用いて、植物間で片利的な送粉者共有が成立する理論的条件を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は計算用のワークステーションを新規購入予定であったが、2021年度の研究は既存のコンピュータ設備を用いて行うことができた。この研究から得られた成果のオープンアクセス化費用に相当額の助成金を充てる予定である。
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