本研究課題の目的は、送粉ネットワークの構造を作る進化生態学的メカニズムの解明である。2021年度は、送粉者との相互作用によって植物の生態的種分化が起きる新たな理論的メカニズムを提案する研究を行った。動物が送粉を媒介する植物にとって、生育環境と送粉環境(どのような送粉者を利用できるか)の2つが自然選択の重要な要因となっている。この研究では、植物が生育環境に局所的に適応することで送粉媒介者に対する花の報酬が増加することで、植物の生態的種分化が強く促進されるという理論的メカニズムを提案した。2022年度には、送粉者を食う捕食者が植物と送粉者のダイナミクスに果たす役割を解明する理論研究を行った。植物との共生ネットワークを構成する送粉者には、それを襲う捕食者の存在がよく知られている。そこで、植物と送粉者と送粉者捕食者からなる力学系モデルを作成し、その安定性を調べた。その結果、捕食者による送粉者の行動改変が捕食者の個体群動態に負の密度制御をもたらすことで、送粉ネットワークの安定性に重要な役割を果たしている可能性があることが分かった。2023年度には、2021年度・2022年度の成果をより一般化するため、送粉ネットワークをふくむ生物群集ネットワークの構造を作る進化生態学的メカニズムの解明に向けた研究を行った。生態-進化フィードバックを組み込んだ群集モデルを構築し、捕食者に対する被食者の防衛形質の進化が群集ネットワークの安定化と多種共存をもたらす新しい仕組みを見出した。この仕組みは、被食者の防衛形質の進化が捕食者の個体群制御に負の密度依存性をもたらすことで捕食者個体群を安定させ、群集動態の安定化をもたらすというものである。また、ネットワーク構成種の創出メカニズムの一つとして、雑種形成により極端な交配形質が進化することで起きる新しい種分化メカニズムを提案した。
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