研究課題
頭足類(イカ・タコ)は一般に乱婚であり、雄が示す多様な繁殖行動、繁殖戦略の観察が比較的容易なため、交尾後性選択(精子競争と雌の隠れた選択)の格好の研究対象となっているが、「頭足類=乱婚」の常識を破ったのが、深海性のホタルイカであった(Sci Rep 2020)。単婚が進化した環境要因は、ベイトマン理論に合わないもの、つまり雌雄どちらかに何らかの制約がはたらき、子孫を残すのに乱婚より有利となったためと思われる。本研究では、ホタルイカの単婚研究を皮切りに、これまで手つかずであった深海性イカ類の繁殖様式を明らかにし、深海という特殊な環境または進化性イカ類独自の生活史形質が単婚進化と如何に関連するのかを明らかにすることを目的とした。まず、ダイオウイカにおいて研究を行い、計42個体の体組織ゲノムDNAを抽出し、ドラフトゲノムシークエンスをもとに4つのマイクロサテライトマーカーの開発に成功した。さらにこれらを使い、日本海で捕獲された生きたダイオウイカ(雌)を調査し、外套膜、頭部、腕基部に埋め込まれた精子塊(計66本)の父性解析を行ったところ、全てが同じ雄由来であることが判明した(Deep Sea Research Part I Oceanographic Research Papers June 2021 175:103585)。次にダイオウイカ生殖器官を解剖し、器官内に精子以外の脂質を含む細胞を発見し、プロテオーム解析を実施してこの細胞に発現する特異的な蛋白質を複数同定した。この未同定細胞の機能や運命を探ることで、深海性イカ類の生殖様式に解明に繋げたい。ホタルイカ研究において、これまで95%の雌が単婚で僅か5%が乱婚の生殖様式をとることが分かっていたが、この5%の乱婚雌の原因について調べ、新知見が得られつつある。ホタルイカの近縁種であるホタルイカモドキにおいて、定期的なサンプリングを実施し、交接時期や様式に関する知見を得ている。
2: おおむね順調に進展している
計画していたもののうち、1つは論文として発表することができた(ダイオウイカ論文)。さらにホタルイカの稀な乱婚についても既にデータを取り終えている。ホタルイカモドキについては父性解析のためのマイクロサテライトマーカーを大凡開発したところである。
計画に従って、ダイオウイカ研究で謎細胞を調べていく。同時にホタルイカ乱婚の論文草案を作成し、ホタルイカモドキの父性解析を行っていく。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 図書 (1件)
Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers
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