ホタルイカは、頭足類の中では唯一単婚(95%)であることが分かっている。逆に5%が複数のオスと交尾する乱婚であることから、この乱婚が生じる原因を調べた。乱婚と単婚のメスの形態的差異は認められなかった。メスに付けられた精子塊の数が片側7個以下だと全て単婚であった。この数が12個以上だと全て乱婚で、8個から11個の範囲で数の増加に応じて乱婚率が上昇した。産卵期に水揚げされる本種の性比を調べると、初期は雄に偏り、後期にはメスのみになる。初期のメス集団の未交接(処女メス)と交接済メスの比の変動からオペレーショナル性比を求め他ところ、繁殖期の初期はオス:メス=32.7 で後期は9.1と圧倒的にオスが多いがオペレーショナル性比は劇的に減少することが示された。それにも関わらず、乱婚率は5%程度と繁殖期を通してこの割合は変化しなかった。これにより、乱婚と単婚の選択にはオペレーショナル性比は関与しないことが明らかとなった。 ホタルイカの近縁種であるホタルイカモドキの繁殖様式を調べた。富山湾のホタルイカモドキは初夏から秋まで繁殖期を持ち、10月以降はオスの割合が多くなった。マイクロサテライトマーカーを開発し、メスに付着した精子塊の父性を調べたところ、乱婚であることが分かった。ホタルイカの雌が持つ精子塊は平均12に対し、ホタルイカモドキのそれはその約20倍と多く、付着位置も広く多様であった。以上より、同じホタルイカモドキ科に属する2種でも繁殖様式に大きな違いがあることが分かった。
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