研究課題/領域番号 |
21K06338
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
春田 伸 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (50359642)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 好熱性細菌 / 細胞間コミュニケーション / シグナル伝達 / 滑走運動 |
研究実績の概要 |
2021年度は、主に「細胞間コミュニケーションシグナル分子の構造および特性の解明」を目指して研究を実施した。シグナル分子の活性は、Chloroflexus aggregansの細胞凝集形成速度を測定し評価した。 まずシグナル分泌条件を検討・決定した。培養期、細胞密度の違いによる分泌量を比較したところ、大きな違いは見られず、これらの条件に関わらず恒常的に分泌していると考えられた。シグナル分子の分泌と応答に関する種特異性を解析したところ、同属他種であるChloroflexus aurantiacusからはシグナル分泌が検出されず、また応答性も観察されず、種特異性が高いと考えられた。このシグナル分子は100℃、5分の加熱にも安定で、トリフルオロ酢酸による強酸性化処理でも活性を維持することがわかった。 シグナル分子の同定・構造解析のため、抽出・精製条件を以下の通り検討・決定した。集菌した細胞をpH緩衝液に懸濁し、光照射条件でシグナル分子の分泌を促した。遠心分離およびろ過により細胞外画分を回収した。シグナル分子の活性は強酸性化処理でも安定であることを利用し、酸沈殿により夾雑物を除去した。分画分子量の異なる限外ろ過膜を用いて段階的に分画し、分画分子量1kDa以下の画分からシグナル分子を回収した。C18を官能基とする逆相系固相抽出カラムおよび多孔性グラファイトカーボンカラムは、夾雑物質の吸着除去に効果があった。イオン交換クロマトグラフィーを試行し、pH条件およびイオン交換樹脂の検討を行ったところ、pH 3の酸性条件下において強陽イオン交換体を用いて効果的に精製できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、主に「細胞間コミュニケーションシグナル分子の構造および特性の解明」を目指して研究を実施した。細胞外シグナル分子の特性解明に関して、計画していた解析を進め、分泌条件や種特異性を明らかにすることができた。シグナル分子の構造解明に関して、まだ構造の確定には至っていないが、シグナル分子の化学的性状を明らかにするとともに、精製方法を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
「シグナル分子の同定・構造解析」を進めるとともに、「シグナル分子の合成・分泌機構の解明」を目指し、以下の戦略で研究を推進する。 低分子シグナル分子の精製には陽イオン交換クロマトグラフィーが有効であることが判明した。そこでHPLCによる溶出条件を最適化し、精製を達成する。また、微量夾雑物を排除するため、薄層クロマトグラフィーを併用する。これらの精製方法により得た分子について、アミノ酸組成および配列を決定する。さらに、シグナル分子を人工合成し、その作用を検証するとともに、その特性(安定性、種特異性、抗菌活性等)を評価する。また、同定したシグナル分子の検出・定量系を構築し、分泌条件(細胞密度、温度変化、環境ストレス等)を明らかにする。 シグナル分子の化学構造をもとに生体内での合成反応を予測し、合成に必要な酵素群を推定する。それら酵素を抽出・精製して活性を確認し、合成経路を特定する。また、シグナル分子の化学構造および合成に関わる酵素の情報をもとに、合成に必要な遺伝子群および分泌経路を特定する。 以上の知見をさらに発展させ、シグナル分子の分泌に関わる転写制御機構を同定するとともに、シグナル分子の受容体とその応答機構および、細胞内シグナル伝達経路を同定していく。これらの研究を通して、本菌の細胞外シグナル分子を介した細胞間コミュニケーションにおける環境応答、シグナル生産から表現型の変化に至るメカニズムの全容を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
精製したシグナル分子の構造情報を得るために計画していた分析が次年度となったため。 シグナル分子の完全精製を達成するのが遅れたことにより、シグナル分子の構造分析費が使用できなかった。精製のための方策は確立できているため、次年度は大幅に遅れることなく構造分析費を使用する計画である。
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